榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

仕事に行き詰まり、父の従兄弟を頼って上京してきた29歳の独身女性の物語・・・【山椒読書論(643)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月27日号】 山椒読書論(643)

コミックス『人間交差点(23)――道草』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「時間割り」は、小学校の教師という仕事に行き詰まり、売れっ子の脚本家である父の従兄弟を頼って上京してきた29歳の独身女性の物語である。

「お母様はオジ様のことを楽天家だと言いますけど、私はこの人は単に責任感がないだけなのだと思います。人に迷惑をかけるのを何とも思わない人間なんです。だからこそ、出来もしない仕事を平気で受けたり、約束を破ったり、逃げ出したりするんです」。

「昔のオジ様はとても怠惰な人でした」。「自由だっただけだ。世の中になまけ者なんか、一人もいない。人によって人生の時間割りが違うだけだ」。「人生の時間割り?」。「そう、幸福だけが続く人生もないし、絶望だけが続く人生もない。どんな人間でも人生の中身は同じだよ」。「人生の時間割り・・・」。

「あのさ可南子、東京にいる水田のオジさん、まだ独身なんだよね。どうしてだろうね」。「いやだお母さん、そんなこと言わないでよ。私だって29になるのにまだ独身よ」。「どこかに好きな人でもいるんだろうかねえ」。「忙しすぎるんじゃないの?」。

「20年前、私と(私の家庭教師をしてくれた)オジの時間割りは、すべてかけはなれていた。それが今は、だんだん接近してきている・・・」。

「あのさ、オジ様・・・」。「何だ!?」。「年の差って物理的には永久に縮まらないけど、年を経るに従って、どんどん近くなるのね」。「そう、わが輩はいつまでも若い、可南子はどんどんバアさんになる。今に逆転する」。「やっだあ、いじわる!!」。「ハハハ」。

可南子の独り言。「身体の中で、まっ白に止まっていた私の時間が、また動き出した♫」。今後の二人は・・・。