榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

後2年で出所できるのに、模範囚はなぜ、突然、脱走したのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1611)】

【amazon 『黄昏流星群(60)』 カスタマーレビュー 2019年9月15日】 情熱的読書人間のないしょ話(1611)

ちょっとした一角でも、工夫次第で風情ある空間を設えることができるのですね。因みに、本日の歩数は10,319でした。

閑話休題、コミックス『黄昏流星群(60)――楽しき哉 我が人星』(弘兼憲史著、小学館)に収められている「逃亡する星」は、後2年で出所できる模範囚・柄本剛志、55歳が広島刑務所の開放的処遇施設から、突然、脱走するところから物語が始まります。瀬戸内海に浮かぶ周囲約30kmの小さな島・足子島に潜伏していると思われるのに、500人に及ぶ警官による一斉捜査でも見つかりません。

20年前、出稼ぎで青森から上京し、日雇い労働者として働いていた柄本は「友達もなく、家庭もなく、一人で安アパートに住んで、道路工事で働く毎日でした。そんなある日、東京に来てから一度も東京見物をしたことがないことに気が付いて、休みの日に、はとバスツアーに参加したのです」。

その時のバスガイド、自分と同じように田舎の匂いがする小石塚トキ子に一目惚れしてしまいます。トキ子のことが頭から離れなくなった柄本は、いろいろ試みるものの、間もなく退職したトキ子に合うことはできませんでした。

その後、仕事仲間とのトラブルから人を殺めて服役中に、刑務所のテレビで放送されていた「ガンと闘う一人暮らしの女性」という内容のドキュメンタリー番組で「小石塚トキ子さん(43歳)」を発見した柄本は、出所まで待っていては生きて会えるか分からないと、居ても立ってもいられず、脱走してしまったのです。

柄本は。漸く探し当てたトキ子と再会します。「もうこれで思い残すことはありません。私の人生の目標はあなたとの再会でしたから」。見覚えのない柄本から事情を聞いたトキ子は、「ありがとうございます。私の人生も幸せでなかったぶん、あなたに少し似ているかもしれません」と語り始めます。

この後、二人が選んだ道は・・・。

人生とは、愛とは、幸せとは――を、しみじみと考えさせられる作品です。