くちびるが首の傾斜を下るころもはや二人というより二頭・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3071)】
サフランモドキ(写真1、2)が咲いています。ゴーヤー(写真3~5)が花と実を付けています。イチジク(写真6、7)が実を付けています。
閑話休題、『荻窪メリーゴーランド』(木下龍也・鈴木晴香著、太田出版)は、男性歌人と女性歌人、二人の短歌集です。
強く印象に残った歌を挙げてみましょう。●は男性歌人の歌、○は女性歌人のそれです。
●「いつか海辺に住みたい」に「ね」を添えてふたりの夢をひとつ増やした
〇ここが窓、ここが玄関。砂浜の上のすみかで花火を待った
〇きみが見た夜がわたしのものになるくちづけるとは渡しあうこと
●おんぶして位置情報を重ね合いながらふわふわコンビニへゆく
●帰りたくない、を書き足したくなるよ改札前のきみの台詞に
〇待ち合わせには早すぎる改札で後ろから君が抱きしめてくる
●文字だけじゃ足りなくなって抱きしめるだけじゃ足りなくなって秋雨
〇私だけ結末を知っている本のどこまで話してしまえばいいの
●ずぶ濡れのままめくれない見開きのようにきみとは離れたくない
〇この星の外に出てしまわないよう繋いでおいたくちびるだった
〇約束をするから怖くなる夜に選んだのはいちばん細い指
〇会いたいというより居たいと思う冬どちらが先に眠ってもいい
●ねえスーモ、毛づくろいしてあげるから同棲にいい部屋を教えて
〇無印で買うバスタオル 包み込むときには君のかたちに変わる
●本棚にふたりの過去を並べれば『海辺のカフカ』上上と下下
●脱がすときわずかに腰をベッドから浮かせてくれるやさしさが好き
〇夢で会う必要はもうなくなってきみのこの世のまぶたを舐めた
●顔文字じゃなくてはじめて顔で見る「いってきます」がいとおしい朝
〇人間に尾のないことを確かめるためにふたりで洗い合ったり、
〇なんとなく指輪はひとつもつけないでゆく荻窪駅東改札
〇君だけが止まって見える雑踏で好きだって言い飽きたりしない
〇恋人のときとおんなじ呼び方でわたしを呼ぶのもうやめにして
〇したいことリストが増えてゆく春のたとえばふたりきりの読書会
●「ごめんいま38度」「うつりたい」「だめ」「意気地なし」「だめです」「うつせ」
●まだ手すらつないでいないのにきみのおでこがぼくのでこにくっつく
〇長いのが似合うといって鼻先を髪の奥まで埋めてくれる
●くちびるが首の傾斜を下るころもはや二人というより二頭
〇したいことリストのうちのいくつかを新しい躰に書き写す
仄かなエロティシズムが堪らない一冊です。