歯みがきをしない古代中国人は、口臭に悩まされた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2535)】
私が22歳まで過ごした東京・杉並の荻窪の実家には、ヤマザクラ(写真1~3)の大木があり、毎年、家族で花見を楽しんだものです。妹に、開花したか尋ねたところ、写真が送られてきました。ソメイヨシノ(写真4~8)、セイヨウアブラナ(ナノハナ。写真9、10)が咲いています。レッドロビン(写真11)の赤い新葉が目を惹きます。我が家の庭で、キズイセン(写真12、13)が咲いています。
閑話休題、『古代中国の24時間――秦漢時代の衣食住から性愛まで』(柿沼陽平著、中公新書)は、文句なしに面白い! 文献史料と出土資料を駆使した中国史家によって、古代中国・秦漢時代の庶民の日常生活が生き生きと再現されているからです。
●歯みがきをしない古代中国人は、口臭に悩まされた――
「主人とその家族は、井戸から汲まれてきた水で顔を洗い、手を洗う。歯みがきはしない。起床時と食後に口をすすぐだけである。・・・すると、ある程度の虫歯は避けようがない。じっさいに、虫歯を意味する『齲』字の起源は殷代にさかのぼり、虫歯は大昔から人びとを悩ませた。・・・近年発見された漢末の曹操墓からは、60歳前後の男性の頭蓋骨が出土し、ひどい虫歯である。文献によれば、曹操は長らく頭痛に悩まされていたようで、その原因は虫歯かもしれないといわれている」。
「もちろん、ろくに歯もみがかずに日々を過ごしている以上、口臭もちの人もいる。口臭がひどければ、男・女ともによりつかず、恋愛・結婚・仕事にも支障が出るであろう。それゆえじっさいに戦国秦の『日書』という占いの書物には、しばしば口臭問題が取沙汰されている。・・・口臭が切実な問題であったことをうかがわせる。・・・ちなみに、当時の美女のなかには『気は蘭の若(ごと)し(吐息は蘭の香り)』と評される者もおり、美女もブレスケア(高価な杜若・鶏舌香の服用)を使用していたことがうかがわれる。古代中国の恋人同士はキスをするので、エチケットとして必要であったのであろう」。
●古代中国人にとっての美人、不美人とは――
「美人は、涼しげな目(明眸)・白い歯(皓歯)・白い腕(皓腕)・細いウエスト(柳腰・繊腰・楚腰)・ツルツルの肌(玉体)・なだらかで細い眉毛(峨眉)・赤いくちびる(朱脣・丹脣)・細い指(細指)などと形容され、それらをバランスよく備えるのがよい。その美しさは『桃・李の若し』『朱顔』『妖にして且つ閑なり』などとも評されるものである。要するに『ほっそり色白で、頬がほんのりピンクな美人』がよいのである」。
「一方、ブサイクは『木鎚頭』『しかめつら』『きめ粗い肌』『色黒』『O脚』『細い首』『突きでた額』『顎なし』『鳩胸』『なで肩』『肌かさかさ』『虫歯』『鼻高すぎ』『髪の毛少ない』などと形容されている。するとその逆に、足がまっすぐであることや、ゆたかな黒髪をもつことも、さきほどの美人の条件に加えてよかろう。現代と異なり、美女の目が二重かどうかは記録がないものの、漢代の字書の『説文解字』をみると、大きい目を意味する字が5つもあり、関連字も多く、目のかたちが軽視されていたとは思えない。少なくとも目力(精)はあったほうがよい」。
「お嬢さまは努力をかかさない。当時のことばに『女は己を説(よろこ)ぶ者の為に容す』とあるように、彼氏や夫の要望に応えようと必死である。それでもふりむかぬ殿方びは、『わたしが髪に油をぬったり、髪をしっかり洗っているのは、あなたのためなのよ』とグチをいいたくもなる。戦国時代には、スマートな女性を好む王のため、ダイエットを重ねて死にいたる女性もいた。もちろん、女の価値はルックスだけで決まるものではないが、『女は顔が命』と放言する殿方がいたのも事実である」。
●男と女の夜の営みは――
「べつの家をのぞいてみると、遊郭でみた男と女がいる。女は遊郭随一といわれる美女、男は官吏である。翌朝帰って正妻に皮肉られることも恐れず、どうやら酔いに任せて『お泊まり』を選んだようである。客のいる部屋では、とばり(羅幃)やカーテン(翠帳)がおろされる。そこには枕と布団が用意されている。男は、手慣れた手つきで女の服を脱がしていく。それとほぼ同時に、両者はキスをしはじめた。キスは恋人同士の愛情表現として、紀元前から洋の東西で営まれてきた行為である。キスもいろいろで、性交まえにはやはりディープキスもなされる。ここで男が、女の胸もとに手を伸ばしはじめた。・・・男の手は下腹部のほうへさがってゆき、ついに女の秘部の茂みに達する。馬王堆漢墓出土の女性ミイラをみると、ミイラには腋毛がなく、手入れをしていた可能性もあり、漢墓からは毛抜もみつかっているが、陰毛はそのまま残っている。・・・セックスは、正常位や後背位によるだけでなく、女主導の騎乗位もおこなわれた。馬王堆漢墓出土の帛書によれば、男のみならず、女にオーガズムのあることも、すでに当時知られていた」。