榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

西岸良平の人生の哀歓を感じさせる作品・・・【山椒読書論(712)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年6月22日号】 山椒読書論(712)

コミックス『夕焼けの詩 僕たちの青春』(西岸良平著、小学館)に収められている「ハッピーニューイヤー」は、人生の哀歓を感じさせる作品である。

鈴木オートの鈴木夫妻と息子の一平が、おとそとおせち料理で正月を祝っている。年賀状をめくっていた鈴木が、「おや、お母さん、珍しい人から来てるよ。佐藤の奴からだ」。「佐藤さんて、あの佐藤さん?」。「そうそう時々家に遊びに来てた・・・会社の社長をしててベンツに乗っていた頃もあったけど・・・会社がつぶれて道路工事現場で働いたり、浮き沈みの激しい奴だったなあ。ダッコちゃんブームの時はオンブちゃんなんて人形を作ってがんばってたけど、やっぱり失敗・・・とうとう奥さんとも離婚してブラジルに渡ったんだっけ」。

一平の友達2人がやって来て、福笑いをしているところに、現在はホノルルに住んでいる佐藤が突然、訪ねてくる。「これは俺のワイフのアグネス。近くの島の元酋長の娘でね、先月結婚したばかりさ」。

「(大柄な)アグネスさんはとっても人なつっこい人で、子供達とすぐ仲良しになった」。「いい奥さんじゃないか、佐藤」。「ハハハ、あれで結構気がきくんだよ。やさしくて世話好きで俺にはすぎた女房さ。仕事も結構順調だし・・・思えば俺もずいぶんいろんな夢を見てきたけど・・・どうやらやっと本当の自分の生き方をつかんだような気がするよ・・・」。「そうか、それは良かったなあ。まあ飲めよ」。

佐藤夫婦は旅行団と一緒に京都へ向かう。「佐藤も変ったなあ・・・(アグネスが踊るフラダンスの伴奏に)ウクレレをひいて、あんなに明るく笑うなんて・・・」。「いい元日だったわね、あなた」。