榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

認知症を発症している89歳の森村誠一のエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2645)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年7月14日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2645)

我が家の庭でキキョウが咲き始めました。

閑話休題、『老いの正体――認知症と友だち』(森村誠一著、角川文化振興財団)は、認知症を発症している89歳の森村誠一のエッセイ集です。

「認知症と友だちになった私は、医師から楽しいものを探す、のんびりする、美味しいものを食べる、ゆっくり睡眠をとる、趣味を見つける、など生活習慣のアドバイスを受け実践している。作家という仕事は、ほぼ一日中原稿用紙に向かっている。たまに取材で旅に出たり、打ち合わせで外出したりはするが、慢性的な運動不足になりがちである。肉体の老化を抑えるために、また様々な疾患を予防するために、運動不足は大敵である。私が実践している健康法には散歩もある」。

「歳を重ねて、老いには少しの勇気が必要だということがわかった。老人になると思いがけない病気もするし、私生活のことで悩んだりもする。そんな予想外の出来事に立ち向かうための勇気である。・・・何にでも興味を持ち、行動しようとする意識があれば、肉体が衰えていっても、訓練することによって、メンテナンスができる。精神力・気力・体力のメンテナンスは、いわゆる『若さ』を保つことに直結するので、非常に重要である。加えて、社会に参加し、常に活動にかかわり続けること。・・・もう一つは夢を抱くための勇気である。人生とは夢を持つことだ。何歳になっても夢は持てるし、小さな夢でも生きがいに繋がる」。

「認知症になろうが、歩くのに不自由するようになろうが、夢や生きがいをなくさないようにしていれば、価値ある日々を送ることはできる」。

人生の後編に必要な5箇条が挙げられています。
①健康であること
②多少の経済力は持っておく
③生きがいを持つ。生産性のあることをする
④仲間がいること
⑤身だしなみを忘れない

「私がうつ病と認知症になったときにしてもそういう姿勢があったことがよかったのだと思う。『まだまだ小説を書きたい』という気森ちが強かったからこそ負けなかったのだ。認知症を完治させることはできないにしても、うつ病は克服し、言葉を失ってしまうような事態は避けられたのである」。

「老いには死というものが待っているが、死ぬまでは生き抜く覚悟をすべきだ。どんなに厳しい状況になっていても、最後まで生をムダにしてはならない。あらためて記しておきたい。人は死なない限りは誰でも老いる。老いを受け入れ、どこかで老いを楽しんでいきたい」。

敬愛する人生の先輩・森村の言葉だけに、説得力があります。棺桶に入る直前まで、読書・書評を続けるぞという覚悟を新たにし、老化や認知症を待ち構えることにします。