「共感」について、こんなに真剣に考え、研究を続けている人がいるとは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2607)】
一日中、雨――。我が家では、アジサイ(写真1~3)、ガクアジサイ(写真4、5)たちが静かに咲いています。
閑話休題、『共感の正体――つながりを生むのか、苦しみをもたらすのか』(山竹伸二著、河出書房新社)を読んで驚いたのは、「共感」について、こんなに真剣に考え、研究を続けている人がいるということです。
著者は、現象学的な観点から共感の本質を9つに整理して考察しています。①共感が生じる経験は、「情動的共感」と「認知的共感」の2つに分けられる。②共感の質は心の発達、特に自己の確立と認知の発達にともなって変化する。③他者の共感によって得られる自己了解と「存在の承認」。④心理的距離、空間的距離の近い人間ほど共感が生じやすい。⑤共感力には個人差がある。⑥共感は感情の共有であり、自己了解と同時に他者了解が生じている。⑦共感は他者理解をとおして他者のためになる行動(利他的行為)を生む。⑧共感は喜びだけでなく、苦しみを生む場合もある(共感的苦悩)。⑨共感はお互いを理解し、協力し合う基盤となり、文化・社会を形成する。
共感の功罪が整理されています。●共感した場合の利点=他者を理解できる(相手を助けられる→利他的行為、心のケア。気持ちを共有できる喜び(仲間意識の形成→協調性の強化)。欠点=苦悩に共感しすぎると苦しむ(→共感的苦悩、共感疲労、共感羞恥)。道徳的判断の過ち(公平性の欠如→相手以外への迷惑、差別)。●共感された場合の利点=理解された喜び(存在の承認→不安の緩和、自己価値の安定)。助けられる、癒される、自己了解。欠点=自分の対する誤解、ありがた迷惑な援助、仲間意識・行動の押し付け。
「良心の本質から見えてくるのは、共感の大きな可能性である。私たちが困っている人、苦しんでいる人を助けようとするのは、そのような人は『助けるべきだ』という道徳規範や理想像があるから、という面もあるかもしれないが、一方では、心から『助けたい』という思いに駆られて行動しているのも事実である。そしてそのような利他的な思いは、共感から生じている。・・・インターネットを中心にメディアが飛躍的に発達し、グローバリゼーションが進展している現代社会は、多様な文化の人々と出会う機会が激増した社会であり、歴史上かつてないほど共感が拡大し得る社会とも言えるだろう。・・・共感は私たちの未来を切り開く上で、とても重要な役割をはたすはずなのである」。