一癖ある大人の読者を中毒にしかねない傑作・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2758)】
【読書クラブ 本好きですか? 2022年11月4日号】
情熱的読書人間のないしょ話(2758)
ハナノキ(ハナカエデ。写真1)、モミジバフウ(写真2~8)が紅葉しています。イチョウ(写真5~9)、カツラ(写真10、11)、ラクウショウ(写真12)、ユリノキ(写真13~16)が黄葉しています。
閑話休題、『キリンの首』(ユーディット・シャランスキー著、細井直子訳、河出書房新社)は、かなり風変わりな小説です。
舞台は、独裁体制が敷かれている旧東ドイツの片田舎の、生徒数減少のため4年後に廃校になることが決まっているギムナジウムです。そして、主役は、そこで生物学を教える50歳代半ばのヴェテラン女性教師、インゲ・ローマルクです。彼女は、職場でも私生活でも、適者生存というダーウィニズムの進化論を地で行く、他人の声を一切受け付けない頑なな人物です。全篇を通じて、彼女の情け容赦ない眼差しが、生徒や同僚、家族や隣人に対して向けられます。
本作品の最大の特徴は、あらゆる場面で、ローマルク先生の口を通して、生物学の知識、進化論の知識が披露されることです。
教育とは何か、教師と生徒の関係はどうあるべきか、人間はなぜ自分の考え方に固執するのか、生物学とは何か、進化とは何か――を考えさせる、一癖ある大人の読者を中毒にしかねない傑作です。