12人の子供のうち6人もが統合失調症を発症した実在の衝撃的な一族・・・【MRのための読書論(204)】
衝撃的な一族
『統合失調症の一族――遺伝か、環境か』(ロバート・コルカー著、柴田裕之訳、早川書房)ほど衝撃的な書物に出会うことは滅多にない。なにしろ、実在の、アメリカ・コロラド州のギャルヴィン家の12人の子供のうち6人もが統合失調症を発症してしまったのだから。
統合失調症を発症した長男のドナルド、次男のジム、四男のブライアン、七男のジョセフ、九男のマシュー、十男のピーターのいずれもが悲惨な生涯を辿ることになるが、自分がその一族の一員だったらと考えるだけで気を失いそうになる。
「ドナルド、ジム、ブライアン、ジョゼフ、マシュー、ピーターは、一人ひとり異なる形で患い、異なる治療を必要とし、次から次へと診断が変わり、統合失調症の本質についての、相容れない説の対象とされた」。「精神に異常を来さなかった子供たちも多くの面で、精神疾患になった兄弟に劣らぬほどの影響を受けた」。
3層構造
本書は3層構造になっている。第1層は、もちろんギャルヴィン家である。第2層は、統合失調症の原因を突き止め、治療、予防に活かそうという研究者たちである。第3層は、ギャルヴィン家の人々と研究者たちに対するインタヴューに基づき、本書を著したロバート・コルカーである。
研究の歩み
「(研究者の)リン・デリンがギャルヴィン家に足を踏み入れるまでの年月には、広く受け入れられている統合失調症の理論は依然として一つもなかった。この疾患の厳密なメカニズムはまだ謎のままで、生まれか育ちかというお馴染みの議論の多くが続いていた」。
「ギャルヴィン家は1980年代から、統合失調症を理解するカギを探し求める研究者たちの調査の対象となった。一家の遺伝物質は、コロラド大学健康科学センターや国立精神保健研究所や複数の大手製薬会社によって解析されてきた。・・・彼らの遺伝物質のサンプルは、統合失調症の理解を進めるのを助ける研究の基礎を成している。研究者は、一家のDNAを解析し、一般大衆の遺伝子サンプルと比較することで、統合失調症の治療や予測、さらには予防においてさえ、大きな前進を遂げようとしている」。
「『その遺伝子を持っている人が全員、統合失調症を発症するわけではないことは明らかです』。統合失調症は確実に遺伝的だったが、必ず遺伝するわけではなかった、だから、誰もが相変わらず首を傾げていた。これはいったいどういうわけなのか? (研究者の)ローゼンタールは言った。『統合失調症と結びつけられた遺伝子が引き起こす影響の本質を、私たちはまだ突き止められていません』」。
「ギャルヴィン一家の変異のようなさまざまな発見が、精神疾患のまったく新しい概念を指し示しうることは考えられる。それは、思っている以上に早く起こるかもしれない。2010年、当時の国立精神保健研究所所長だった精神科医のトーマス・インセルは、研究者たちに統合失調症を単一の疾患ではなく『一群の神経発達障害』と再定義するように呼び掛けた。一枚岩の診断としての統合失調症の終わりは、この疾患を取り巻いている汚名の終わりの始まりを意味しえた。もし統合失調症がまったく疾患などではなく、ただの症状だとしたら?」。
「多くの研究者にとって、合言葉は予防、つまり、統合失調症を発症する危険がある人々が、最初に精神に異常を来す前に正確に診断を下すという課題だ」。
因みに、私が一番信頼できる医学情報と考えている「MSDマニュアル プロフェッショナル版」では、統合失調症はこう解説されている。「統合失調症は、精神病(現実との接触の喪失)、幻覚(誤った知覚)、妄想(誤った確信)、まとまりのない発語および行動、感情の平板化(感情の範囲の狭まり)、認知障害(推理および問題解決の障害)、ならびに職業的および社会的機能障害を特徴とする。原因は不明であるが、遺伝的および環境的要因を示唆する強固なエビデンスがある」。
「(本書は)自分の兄弟たち、すなわち世間の大半が無価値に等しいと判断した人々の中に、人間性を再発見することについての物語だ。それは、想像しうる事実上すべての形で最悪の出来事が起こった後でさえ、家族であるとは何を意味するかを理解する新しい方法を見つけることについての物語なのだ」という著者の言葉が、胸に迫る一冊だ。
戻る | 「MRのための読書論」一覧 | トップページ