榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

人間は利のために動く、君臣の間に愛はない・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2809)】

【読書クラブ 本好きですか? 2022年12月25日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2809)

ソシンロウバイ(写真1)が咲き始めました。ポインセチア(写真2~4)が咲いています。

閑話休題、『韓非子――全現代語訳』(韓非子著、本田済訳、講談社学術文庫)のおかげで、名しか知らなかった韓非子とその思想の全体像を俯瞰することができました。

「韓非子は諸子百家のうちで法家に属する。法家とは、『史記』の作者、司馬遷の父、司馬談の定義によれば、『君臣上下の分を正し』、『親疎を別たず、貴賤を殊にせず、一に法に断ず』るもの、『厳にして恩少なし』と評される。・・・法家の共通の特徴とする点は、法律や権力による強い統制でもって富国強兵の実を挙げようという、最も現実主義的な考え方である。この派が出て来るのが、春秋戦国のうちでも、社会の混乱の極点に達した時期であり、(この派の)人々が多く実際の政権担当者であることが、この派の性格を形成した要因である。・・・『韓非子』のなかには老子との思想的連関を示す部分が相当ある。・・・韓非自身が実はシニックなのである。特に人間の見方において、韓非に言わせれば、人間はすべて利のためにのみ動く」。

「二柄 第七」の篇は、こう説明されています。「柄はハンドル。二柄とは賞と罰の二つのハンドル。韓非子はこれが君主の最も有力な武器であるとする」。

「説難 第十二」の篇――「篇名はゼイナンとよむ。説は遊説の説、説き伏せる意味。説難は人を説得することの困難さを意味する。孤憤とともに、最も熱っぽい文字。秦の始皇が読んで、その作者に会いたがったという諸篇の一つ」。

「備内 第十七」の篇――「備内とは、内に備えよという意味。人主たる者、家の内にある妻妾やわが子に心許してはならぬというので、韓非の人間性不信の観念が、最も端的に現われている」。

「安危 第二十五」の篇――「国を安泰に保つ道(安術)と、国を危うくする道(危道)とを説く。始めに定義を箇条にして挙げ、あとに概括的な説明を敷衍する」。

「定法 第四十三」の篇――「法を定めるについての韓非の考え方を示す。申不害は専ら督責の術を主張し、公孫鞅は専ら法の客観性を重視するが、韓非は、両者いずれも不完全で、術と法と兼ね具えなければいけないという。法家理論の集大成としての韓非の立場がよく現われている」。

「五蠹 第四十九」の篇――「蠹は木の中に発生してその芯を食う虫。国の中にあって国を蝕む人に譬える。そのような人が五種あるから五蠹と名付けた。『史記』によれば、秦始皇帝が読んで著者に会いたがった諸篇の中の一つ」。

「顕学 第五十」の篇――「顕学とは、世に名高い学派の意味。儒・墨の学説を完膚なきまでに攻撃した一篇」。

人間は利のために動く、君臣の間に愛はない――徹底した現実主義的人間観に基づく実践的君主論のポイントを学ぶことができました。