夫と付き合っている女学生に、人妻が拳銃での決闘を申し入れた話・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2862)】
10日間通い詰め、漸く、ヒクイナ(写真1、2)を撮影することができました。バン(写真3、4)、タシギ(写真5、6)、オオジュリン(写真7)をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は12,789でした。
閑話休題、ドイツの作家、ヘルベルト・オイレンベルクの短篇小説『女の決闘』を森鴎外が訳しています。『於母影・冬の王――森鴎外全集(12)』(ちくま文庫)に収められています(青空文庫でも読むことができます)。13ページと短いが、印象的な作品です。
ある晩、ロシアの医科大学の女学生が下宿に帰ると、卓の上に手紙が置いてあります。手紙の主は、あなたが付き合っている男の妻コンスタンチェと名乗り、拳銃での決闘を申し入れてきたのです。
手紙を書いた女は、銃砲店に行き、拳銃の打ち方を習います。
翌朝、決闘場所で二人は代わる代わる拳銃を六発ずつ打ち合い、最後の一発で女学生が殺されてしまいます。
その場を逃げ出した人妻は、村役場を訪れ、決闘で人を殺したので捕らえてほしいと申し出ます。
未決監に入れられた人妻は、絶食して死んでしまいます。残されていたのは、牧師に二度と来ないでほしいという書きかけの短い手紙だけでした。
その手紙の一節には、「(女学生の手で殺してもらおうと思っていたのに)わたくしが勝ってしまいました時、わたくしはただ名誉を救っただけで、恋愛を救う事が出来なかったのに気が付きました。総ての不治の創の通りに、恋愛の創も死ななくては癒えません。それはどの恋愛でも傷けられると、恋愛の神が侮辱せられて、その報いに犠牲を求めるからでございます。決闘の結果は予期とは相違していましたが、兎に角わたくしは自分の恋愛を相手に渡すのに、身を屈めて、余儀なくせられて渡すのではなく、名誉を以て渡そうとしたのだというだけの誇を持っています」とありました。
鴎外は、なぜ、この作品を訳そうと思ったのでしょう。若き日に、エリーゼ・マリー・カロリーネ・ヴィーゲルト(『舞姫』ではエリス)との恋愛を貫けず忸怩たる思いを持ち続けた鴎外は、長年精魂を込めて訳した『即興詩人』の主人公に対してと同じように、『女の決闘』の人妻にも恋愛を貫く勇気を認めたのではないでしょうか。