榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

平安朝の貴族の女性は臭かった?・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2866)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年2月20日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2866)

メジロはミカンやリンゴだけでなくキウイフルーツも食べるかしら、と撮影助手(女房)が言い出しました。私の外出中に、私のお古のデジカメで撮影助手が撮った写真が、その答えを示しています。

閑話休題、『歴史をうがつ眼』(松本清張著、中央公論新社)のおかげで、松本清張の歴史観を覗き見することができます。

●ステファン・ツバイクについて
「歴史上の人物を書くとすれば、まったくの小説の形式ではなく、ほかの方法でならやりたいと思っている。どういうものか分らないが、考えられるものといえば、ステファン・ツバイクの仕事のようなものである。しかし、ツバイクでもわたしにはまだ距離がある。その方法が見つかったら意欲がまだ湧くかもしれない。本誌の読者で思いつかれたお考えがあったら、ご教示をねがいたい」。

●財産費消による王朝交替について
「墳墓の築造には莫大な費用がかかった。中期の壮大な前方後円墳などは、韓三国からの船が大阪湾に入ったとき、エジプトのピラミッドより大きな規模と威容をもって彼らを驚かせ、大いに国威を発揚しようという『国際的』な目的もあったかもしれません。また、河内・大和両王朝の対立時代だったとすれば、大和王朝への示威の目的があったかもしれません。しかし、いくら景気よく見せても、金がかかります。そこで長続きはせず、あとの墳墓は急に小さくつくった。しかし、緊張財政も遅きに失した。大王家は墓作りに財産をはたいてしまったのです。・・・応神から始まって武烈にいたるまで11代の天皇の名が古事記や日本書紀に出ていますが、かりにその通りに信用するにしても、その応神系統は武烈天皇を最後に絶えてしまいました。これはおそらく墓作りに金をかけすぎて大王家の財政が枯渇したため、それまで支持していた豪族が、応神系の大王一家を見捨ててしまったのだと思います。・・・さて、応神王朝系が絶えると、あと継体天皇というのが継ぎます」。

●平安朝の貴族の女性の健康状態について
「当時の恋愛は男のほうが女性の住居を歴訪する。・・・男はそういう運動するから健康です。・・・で、(間仕切りがなく、寒い家宅にいる)女性のほうは風邪をひきやすく、呼吸器病にかかりやすい。で、早死する。美人薄命というのは、そういうところからきた。それに貴族の女性は坐ってばかりいるから、疥癬にかかる。皮膚病、これがまた臭いらしいんですね。恋人に不快を与えてはならないから、それをかくすために香料を求めた。香道の発達はそれによります。さらに今度は恋人が家に来てくれないとなると、イライラする。・・・裏切られた女性は神経衰弱になって気鬱病になります。夜になりますと、当時の照明は紙燭といってロウソクが1本、燭台に立っているだけ。それが光学的な関係で、うしろの壁などに、自分の影が巨大な姿で映る。ノイローゼにかかっているときですから、われとわが影におびえます。それがいわゆる『物の怪』であります。それで陰陽師が活躍し、さらに密教的信仰がはやる。また、祟りというものも流行する。ということで、宗教的が呪術的になってくる。祟りは、平安朝からさかんに出てきます」。

●畿内政権の成り立ちについて
「『天孫民族』と呼ばれる勢力が、西から畿内に移って来たということはいえる。縄文文化から弥生文化が自生したんじゃないとぼくは思うが、それと同じに、畿内の先住者がそのまま『天孫民族』になったんじゃないと思うのです。西から移って来たというと、西はやっぱり九州しかない。それじゃ九州に来るまでどこにいたのかというと、やっぱり弁韓のあたり、のちに任那とよばれた地方から、大体3世紀の終りから4世紀にかけて、ちょうどそのころ朝鮮では動乱があったから、そこを脱出して北九州に来た。そしておそらく卑弥呼の女王国を征服し、南九州の狗奴国の勢力も大体服属させて、九州に一つの政権をつくった。そしてそれが東に移って、河内から大和に定着したんじゃないか。大ざっぱなところ、大体こう考えていいんじゃないか」。

清張ファンにとっては、見逃せない一冊です。