【特別寄稿】頑張れ、MR!――イキイキ・ワクワクMRへの7つのヒント・・・【Monthlyミクス 20011年3月号「Promotion」】
MRの重要性は変わらない
近年、MRを巡る環境は大きく変化していますが、これらの変化にもかかわらず、ドクターの処方への影響力においてMRの重要性は変わらない、と私は考えています。もちろん研究会、講演会、説明会などはMRの有効な武器ですが、一番重要なのは、やはり「MR一人ひとりのドクターとの面談、ドクター一人ひとりの心に響くMR活動」だと確信しています。
MRはやりがいのある仕事か
私は三共(現・第一三共)で開業医担当10年、大学・基幹病院担当10年の合計20年間、MRを経験しました。「MRというのは、やりがいのある、素晴らしい仕事」というのが、私の長いMR経験から得られた結論であり、確信です。そうは言っても、どんなに優れたMRであろうと、常に順風満帆でいられるほど、MRの仕事は甘くありません。このように奥の深い仕事だからこそ、MRは面白いのです。
MR活動は営業活動だからこそ面白い
MR活動は、高度の専門情報をドクターに提供する営業活動だ、というのが私の基本的な考え方です。常に勉強を続け、MRとして、人間として、自分のレヴェルアップに努力していくことが求められているのはもちろんですが、営業活動という視点からMR活動を考えてみることも必要でしょう。
昔、こんなMRがいた
MRにとって一番大切なことは、「先生の一番のニーズ、ウォンツは何か」、「先生にとって、現在の優先順位はどうなっているのか」、「先生のお役に立てることで、自分にできることは何か」といったことを把握した上で、情報を提供していくことです。重要でぜひ話を聞いていただきたいドクターほど忙しいのが常ですから、たった数秒、数分のチャンスでも逃さない「営業センス」を磨くことを心がけ、MR活動を展開していくことが肝要です。
それでは、MR時代の榎戸は、どんなMRだったのか。当時とは環境が異なる現在のMRがそのまま実行することは難しいでしょうが、日夜、頑張っているMRの皆さんのヒントになれば幸いです。
心のポイントが貯まる名刺
第1のヒントは、「心のポイントが貯まる名刺」です。ターゲットの先生に残念ながら会えなかったときは、名刺に自分を印象づける一言を書き添えていました。例えば、宮崎から遠く離れた高千穂の先生であれば、「先生にお会いするのだけを楽しみに、3時間半かけて宮崎からやってまいりました。次回、お会いできるのを楽しみにいたしております」というような一言です。
ターゲットの先生に会えないとがっかりするMRが多いのですが、私は、会えない回数だけ、先生の心の中にポイントが貯まる、すなわち、このMRに会わねばというプレッシャーを先生の心の中に積み重ねることができる、と前向きに考えておりました。
正直ランキング
第2のヒントは、「正直ランキング」です。先生方は、「この患者をどう治療すべきか」、「どの薬剤を使うべきか」ということだけでなく、ライヴァルとの出世競争とか、子供の教育問題とか、解決すべきさまざまな課題を抱えておられます。
そこで、ターゲットの先生にドクターのランキング表を見せながら、「先生は、私が担当させていただいているドクター127名の中で、最も重要なドクターの3位に勝手ながらランクさせていただいております。先生のお役に立ちたいのですが、私がお手伝いできる課題を教えていただけませんでしょうか?」と、思い切って、聞くことにしていました。先生というのは気難しい人が多いと思われがちですが、このようにストレートに聞くと、意外と、正直に答えてくださるものです。その課題を聞き出したら、「今日から、先生のお役に立てるよう思いっ切り頑張ります。今日以降、私が本当に先生のために頑張っているか、お手数ですが、監視をお願いいたします」と、先生を自分の監視役に仕立ててしまうのです。そして、「榎戸はよく頑張っているなと認めていただけた時点で、高コレステロール血症の患者さんにメバロチンのご処方を1例だけお願いいたします」と依頼するのです。この「正直ランキング」により、毎月、面白いように主力製品の実績が伸びていったのであります。
1秒ディテーリング
第3のヒントは、「1秒ディテーリング」です。先生と面談しているとき、先生と廊下ですれ違ったとき、先生とトイレで隣り合わせになったとき、どこであろうと、「先生の右手が頼りのセフメタゾン」といった、自分で考えた短いキャッチ・フレーズを毎日、毎日、唱えるようにしておりました。先生方が、このキャッチ・フレーズを覚えてくださったら、もうしめたものであります。あるとき、ある先生から、「私は左利きですから、そのキャッチ・フレーズは無効ですよ」と笑いながら言われたことがありました。そのときは、とっさに「先生の左手が頼りのセフメタゾン」と言い直し、以後、その先生には「先生の右手が」とは言わないように留意しました。
愛の定期便
第4のヒントは、「愛の定期便」です。私は詩が好きだったので、「山のあなたの空遠く、『幸(さいはひ)』住むと人のいふ」というような、ロマンティックな詩を小さなカードに手書きして、毎月届けるシリーズものとして、先生方に手渡ししておりました。この「愛の定期便」を楽しみにして、診察机のデスク・マットの下に入れてくださる先生は、間違いなく榎戸のファンになってくださいました。
危ないリーフレット
第5のヒントは、「危ないリーフレット」です。当時の基幹病院の医局の先生方の机上は、その日、先生に会えなかった数十という競合他社のMRが置いていった各社のリーフレットでいっぱいの状態でした。ほとんどのMRはリーフレットを閉じたまま置いていくのですが、私は、一番重要な箇所にマーカーで印をつけた、先生に一番見ていただきたいページを開いて、しかも、先生の本棚の本と本の間から垂らしたり、机から今にも落ちそうな状態で置くようにしていました。外来から帰ってこられたり、手術から帰ってこられた先生が、「おっと、このリーフレットは落っこちそうだ」と目に留めてくださることを期待してのアイディアです。このような、適度なユーモアが、常時、仕事に追われている先生方を癒やすのであります。
秘密の連絡箱
第6のヒントは、「秘密の連絡箱」です。重要なドクターほど忙しいため、なかなか話す時間を確保することができません。そこで、私は、最重要ドクターとは、やり取りするメモの置き場所を予め決めておき、その場所を「秘密の連絡箱」と名づけておりました。その場所は、例えば、その先生の本棚の「肺がん治療の実際」といった分厚い専門書の236ページと決めておいて、先生も私も1日に1度はメモをチェックするのです。他のMRやドクターには内緒ですから、その先生と私は秘密を共有することになり、たとえ、一定期間、その先生に会えない状態が続いても、会ったのと同じ効果が得られる優れ物でした。
踊るMR
第7のヒントは、「踊るMR」です。先生が、私の依頼に応えて、漸く第1例目を処方してくださったときは、必ず、私にそのことを教えてくださるよう依頼しておりました。例えば、半年後に、「榎戸さん、今日、コレステロールが250の患者にメバロチンを処方しましたよ」と囁かれたら、その場で、人目をはばからず、1分間、感謝の気持ちを込めて踊りました。正に、「踊るMR」であります。このように馬鹿になって踊るMRは、日本中で、私一人だけだったと思います。
周囲の先生方が、私の踊りに興味を抱き、私がその場を去った後、「さっき、榎戸さんは何をしていたのですか?」とその先生に尋ねることが多く、質問をした先生は、自分が処方したときも榎戸は踊るかなという好奇心から、メバロチンの処方を開始してくださるという波及効果もありました。
榎戸の願い
病気で悩んでいる患者のことを、いつも念頭に置いて仕事のできるMR、一日一日をイキイキ・ワクワクと心を弾ませ、情熱を赤々と燃やして、MR活動に取り組んでいけるMR、自分のアイディアを同僚や後輩にも気持ちよく提供できるMRであってほしい――これが、私の心からの願いであります。
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