小説を物しようという人だけでなく、文章を書く人にも役立つヒントが満載・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2883)】
モクレン(シモクレン。写真1~3)、ブルビネラ・フロリバンダ(写真4、5)、アセビ(写真6、7)が咲いています。ヴィバーナム・ティヌス(トキワガマズミ。写真8、9)が蕾を付けています。我が家の庭の片隅でクロッカス(写真11、12)が咲いています。
閑話休題、『小説作法の奥義』(阿刀田高著、新潮社)は、小説を物しようという人だけでなく、文章を書く人にも役立つヒントが満載です。著者の体験に基づいているので、説得力があります。
●書き出しと語り口は短編の命
「短編小説は読者のもとに長くお邪魔しない。奥ゆかしく、礼儀正しい文学である。現実の出来事を写したり、あるいは写したように見せる物語を基本に作られる長編小説に比べて、イマジネーションを多彩に、自由に膨らませることもできる。しかし、逆に言えば、最初の数行で読者をイマジネーションの世界に引き込まなくてはならない。そうなると魅力的な書き出し、そして語り口が重要となる」。この後に具体案が続きます。
●松本清張のメモの活用
「うれしいことに松本清張もメモの活用をエッセイに綴っている。相当に入念だ。そのエッセイ『黒い手帖』からメモの一例を拾えば、<×月×日 時間表マニア、殺人事件の発覚。*『点と線』の原型的ヒント>。この一行から名作『点と線』が生まれたとすれば、これに続く想像力が凄い」。
<ヒントは、私の場合、ぼんやりと何もほかのことを考えないで、頭脳が解放された、のんびりした状態の時にポカッと浮かんでくるので、こればかりは、一生懸命に机にしがみついて、頭をかかえこんだからといって浮かんでくるものではありません。だから、浮かんできたら、その場で、ただちに、持ちあわせた手帳なり何なりにメモしておきます。突然湧いたものだけに、すぐ記憶からうすれるということが非常に多く、あとで考えても、一体あれは何だったかなと、思いだそうとしても出てこないことがあるほどです。だから、なるべく、いつもノートを用意しておいて、思いついたら、すぐに一語でも二語でも簡単にメモしておくことが大切であります>。
メモ魔の私には、嬉しい情報です。
●オリジナリティあるダイジェストを目指して
「『難解な古典をダイジェストするコツはなんですか』と、よく問われる。いろいろ方法はあると思うが、心がけていることをいくつか挙げれば、まず、自分が『おもしろい』と思うトピックスから入ること。『ギリシア神話を知っていますか』の場合は、私の好みとして、波乱万丈、血沸き肉躍るトロイ戦争の発端を描くところから始めた。同じくらい有効な手法として、作者の紹介から入るのも良いだろう。たとえばホメロスやシェイクスピア、ダンテ。それぞれに人間くさいエピソードが伝えられているし、その生死にまつわる史跡もある。現代の読者にも身近な話題を提示して、徐々に作品に誘導する。しかし、何よりも大切なことは『なぜ今、他の誰でもない自分が、この古典をダイジェストし、新しい解釈を語るのか』を明確に意識すること。ダイジェストには、オリジナリティが不可欠で、これがなくては、目的が曖昧になってしまう」。このコツは、書評を書く場合にも役立ちそうです。