妻の愛人が潜む小部屋の出入り口を塗り込めてしまった貴族の話・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2979)】
コフキトンボの雌のオビトンボ型(写真1、2)、シオカラトンボの交尾(写真3)、ムラサキシジミの雌(写真4~6)、アサマイチモンジ(写真7、8)、サトキマダラヒカゲ(写真9)、アゲハ(写真10)、ハラビロカマキリの孵化後の卵鞘(写真11)、コチドリ(写真12~15)をカメラに収めました。雨続きだったので5日ぶりにカルガモの親子(雛7羽)を見に行ったところ、親子の姿なし。四面を深いコンクリート壁に囲まれた調整池なので雛たちが飛び立つことは難しいと思われる。屯している4羽のハシボソガラス(写真16)の仕業か。大学院生になった気分で、東京大学柏キャンパスの食堂で昼食(写真17)。因みに、本日の歩数は11,121でした。
閑話休題、短篇集『グランド・ブルテーシュ奇譚』に収められている『グランド・ブルテーシュ奇譚』は、目を背けたくなるような、世にも恐ろしい物語です。
「『奥さまはヴァンドーム最高の美女で、一番のお金持ちでございましたからね。資産からの所得が、年に二万リーヴルぐらいはあったのではないでしょうか。町中の人が、結婚式に出ましたよ。花嫁はかわいらしくて、愛嬌があって、この上なくすてきでした。ああ! あのときには、あんなにお似合いのカップルだったのに!』」。
「『あの方(若いスペイン人の大貴族)はまるで司祭さまみたいに聖務日課書を読んでいて、ミサなどのお勤めにもきちんと出かけていました。その席がですね――これは、あとで気づいたわけですけど――、メレ夫人の礼拝の席のすぐ近くでした』」。
「グランド・ブルテーシュ館において、メレ夫人の部屋は一階にあった。そして壁の内側に作られた奥行き四フィートばかりの小さな空間が衣装戸棚として使われていた」。
「妻の部屋の鍵をまわした瞬間、彼にはあの衣装部屋の扉が閉まる音が聞こえたような気がした。しかし部屋に入ってみると、妻がひとりで暖炉の前に立っていた。・・・メレ氏は妻に面と向かって『そこの小部屋にだれかいるのかね?』と、冷たくいいはなった。彼女はびくともせずに夫を見つめ、さらりと『いいえ』と答えた。『いいえ』という。この否定のことばが、メレ氏の胸をぐさりとえぐった。それを信じられなかったのだ」。
メレ氏は左官職人を呼び、煉瓦と漆喰で小部屋の扉を塞がせてしまいます。
「(メレ氏が背中を向けているとき)ひとりの男の褐色の暗い顔と、黒い髪の毛と、燃えるような瞳が見えた。夫が振り向く前に、かわいそうな妻にはこの異国の青年に向かってうなずくだけの時間があった。それは『希望をすてないで!』という合図だった」。
夫が出かけるや否や、「夫人は、言語に絶するほどの激しさでもって(小間使いに持ってこさせたつるはしで)壁を崩し始めた。早くも煉瓦をいくつか取り外して、さらに強烈な一撃を加えようとして身がまえたとき、背後にメレ氏がいるのに気がついた。夫人は気を失った」。
「『いいかジャン、わたしの食事は妻の部屋まで運ばせてくれ。妻は具合が悪いから、治るまでわたしが付き添うことにする』。こうしてこの残酷な貴族は、二〇日間というもの妻のそばを離れなかった。最初の何日間かは、壁でふさがれた小部屋から物音が聞こえてきた。ジョゼフィーヌ(妻)が、死にかけている人を助けてちょうだいと嘆願しようとすると、夫は妻にはなにもいわせず、こう答えるのだった。『あそこにはだれもいないと、きみは十字架にかけて誓ったではないか』」と、物語は結ばれています。
これが、実話ではなく、バルザックの純然たる創作であることを祈るばかりです。