榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

カール・リンネは、なぜ、乳房にこだわったのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2993)】

【読書クラブ 本好きですか? 2023年6月27日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2993)

ニホンアカガエルの幼体(写真1、2)、シロカネグモ属の一種(写真3)、ホシハラビロヘリカメムシ(写真4)、シオヤアブの雄(写真5)、雌(写真6)、クロバネツリアブ(写真7)、オオシオカラトンボの雄(写真8)、ツマグロヒョウモンの雌(写真9)、ヒカゲチョウ(写真10)、ジャノメチョウ(写真11、12)、ヒメウラナミジャノメ(写真13、14)、ニイニイゼミの抜け殻(写真15)をカメラに収めました。ハス(写真16、17)が咲き始めています。因みに、本日の歩数は11,375でした。

閑話休題、気鋭の科学史家(女性)の手になる『女性を弄ぶ博物学――リンネはなぜ乳房にこだわったのか?』(ロンダ・シービンガー著、小川眞里子・財部香枝訳、工作舎)は、ジェンダーがどれほど深く科学の形成に関わったかを考察しています。「ヨーロッパ人男性を人間の型とし、女性をその亜種とした18世紀の性の科学への反省の気運は、近年高まってきている」。

とりわけ興味深いのは、「なぜ哺乳類は哺乳類と呼ばれるのか?」の章です。

「カール・リンネは、1758年に『自然の体系』の第10版で、ママリア(哺乳類、字義的には乳房類)という用語を動物分類学に導入した。・・・綱(こう)として、リンネは文字どおり『乳房の』を意味するこの用語を考案し、雌の乳房をその綱のイコンとして偶像化したのである」。

リンネは、なぜ、乳房にこだわったのでしょうか。「リンネの科学的関心を乳房に向かわせたもっと直接的で差し迫った政治情勢もあったのである。医者や政治家が母乳の徳を賞揚しはじめた時代思潮と軌を一にして、リンネは母の乳房を尊んだ(リンネは開業医であり、7人の子の父であった)。18世紀の中・上流階級の女性は乳母を(雇うのを)やめるよう奨励され、1794年、プロイセンでは、健康な女性は自分で赤ん坊に授乳するよう法律化されるほどだった。リンネは乳母反対運動に関わり合うことになったのだが、その運動は女性の公的能力を阻み、女性の家庭的役割に新たなる価値を付与する政治的再編につながるものであった。言いかえれば、雌の乳房に向けられた強い科学的関心は、雌が――人間であれ動物であれ――自分の子供を母乳で育てることがどんなに自然なことかを強調することによって、ヨーロッパ社会における性的分業を促したのである」。

「リンネのママリアという用語はダーウィンの進化論以降でさえ使用され続け、今日なお国際動物命名規約によって承認されている」。