榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

関東大震災直後の朝鮮人等大量虐殺は、暴発・暴走した群集心理によるものだった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3146)

【読書クラブ 本好きですか? 2023年11月27日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3146)

トモエガモの雄(1~6、1の中央、2の右手前、4の奥)、ツグミ(写真7~9)をカメラに収めました。イロハモミジが紅葉しています(写真10、11)。イチョウが黄葉、ニシキギが紅葉しています(写真12、13)。ラクウショウが黄葉し、実を付けています(写真14~16)。

閑話休題、『関東大震災と民衆犯罪――立件された一一四件の記録から』(佐藤冬樹著、筑摩選書)は、関東大震災直後の朝鮮人・中国人・日本人の大量虐殺は当局の流言飛語に煽られたものだという定説に真っ向から異議を唱えています。この点で、類書とは一線を画しています。

「関東大震災の際、自警団が大勢の人びとを殺傷したことは良く知られている。彼らは朝鮮人や中国人を殺し、ときに日本人をも巻き添えにした。検察はこれらの民衆犯罪のうち114件を立件した。殺人、騒擾及殺人、殺人及殺人未遂などの罪で約640人が起訴され、そのほとんどが有罪になった。ふつうの住民が400人以上を殺害した、近代日本史上類例のない刑事事件であった。付け加えれば検察は、事件の捜査に熱心ではなかったし、犯人すべてを検挙したわけでもない。民衆を刺激したくなかったからである」。

「『不逞鮮人』襲来のデマを広めた警察、政府によるデマの公認、戒厳軍による朝鮮人、中国人の虐殺、県庁と郡役所が発した官製団体(消防組、在郷軍人会、青年団)への武装動員命令、自警団員裁判の実態、その後の隠蔽工作など。先行研究は国家の責任を次々に明らかにした。しかしその反面、民衆犯罪の実態解明が疎かになり、いつまで経っても虐殺事件の史実が『私たちの歴史』になりきらないという課題が残されている」。

「たしかに人びとは『不逞鮮人』襲来に備えよという指示命令に従って武装した。しかし、その後の行動は彼ら自身が選び取った。彼らは『不逞鮮人』(朝鮮独立運動家)と思しき青年男子ばかりか、女性や子供、妊産婦や乳幼児に至るまでを惨殺した。証言によればおよそ60人の朝鮮人女性が殺されている。官憲は『不逞鮮人』と『良鮮人』を区別せよと命じたが、自警団は、朝鮮人の抹殺―エスノサイドを選んだのであった。また、千葉や埼玉、群馬では、数百数千の群衆が警察署や巡査駐在所を取り巻き、収容された朝鮮人を引き渡せと大騒ぎした。こうした騒動が30件近くも発生し、このうち11件では、群衆が警察署構内に押し入って朝鮮人を虐殺した。民衆犯罪の多くは、権力の思惑を超えていて、先行研究の認識枠組みからも大きくはみ出している」。

本書は、「消防組が虐殺事件の主犯となった事実とその背景を浮き彫りにする」。

本書は、「(日本人襲撃事件の)日本人の被害は必ずしも『朝鮮人と間違えた』結果ではなかったこと、被害者の多くは『発音不明瞭なる』地方出身者やろう者ではなく、若い勤め人と学生だったことを明示する」。

自警団の犯罪の4つの特徴が挙げられています。

  • ①徹底した攻撃性
  • ②性別、年齢を問わず、朝鮮人すべてを襲撃対象とした無差別性
  • ③警察への反発
  • ④群衆による犯罪

「自警団は、老若男女すべての朝鮮人を敵と見なし、虐殺をくり返した。乳幼児や妊娠した女性、昨日までの隣人さえ襲っている。襲撃を邪魔する者は警察官でも容赦しなかった」。これは「原始的な復讐心」の発露だというのです。

「日本人襲撃事件の実態は全く分かっていない。朝鮮人襲撃事件とのちがいや共通点、いつ、どこで、どのような人が何人襲われたのかも分からない。たとえば自警団は、日本人を『朝鮮人と間違えて』襲ったとしばしば言われてきた。しかし彼らは、相手が日本人と分かった後もしばしば暴行を加え、『同胞殺し』を避けようとしなかった。すべてを『誤認』襲撃とみなすと民衆犯罪の本質が見えなくなる」。私の野鳥観察コースの一つである千葉県福田村(現・野田市)・田中村(現・柏市)で起こった香川出身の売薬行商人一行の9人(この中には乳幼児3人と母親2人が含まれる)が虐殺された事件にも言及されています。

暴発・暴走する群集心理の恐ろしさに肉薄した一冊です。