榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ベートーヴェンの「ジャジャジャジャーン」は「運命は扉を叩く」だと嘘をついた男・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3224)】

【読書の森 2024年2月13日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2324)

ルリビタキの雄の若鳥と思われる個体(写真1、2)、ジョウビタキの雌(写真3)、カワセミの雄(写真4)、ツグミ(写真5)、後ろ姿のカケス(写真6)をカメラに収めました。シメ(写真7)の20羽ほどの群れに出くわしました。芳香を放つシダレウメ(写真8~11)の天辺にヒヨドリ(写真8、9)がいます。ウメ(写真12~14)林は芳香に包まれています。我が家の庭師(女房)から、キズイセン(写真15)が咲き始めたわよ、との報告あり。因みに、本日の歩数は11,434でした。

閑話休題、ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが「交響曲第五番」の「ジャジャジャジャーン」というモチーフについて、「このように運命が扉を叩くのだ」と述べたことを知っていますか? ベートーヴェンの晩年に秘書を務めた22歳年下のアントン・フェリックス・シンドラーが『ベートーヴェン伝』に書いていることだが、これはシンドラーがついた数々の嘘の一つだと、『ベートーヴェン捏造――名プロデューサーは嘘をつく』(かげはら史帆著、柏書房)は告発しています。

この嘘つきシンドラーの人物という形をとった小説である本書が面白くないわけがありません。つまり、滅茶苦茶、面白い!

それにしても、シンドラーは、なぜ嘘をついたのでしょうか。実際はベートーヴェンに嫌われていたのに、自分は偉大な音楽家ベートーヴェンに信頼されていた秘書だと見せかけたかったからでしょう。でも、それだけではないと、著者・かげはら史帆は考えています。人間性にとかくの問題のあるベートーヴェンの実態を隠蔽し、その栄光を守り抜こうとしたのだというのです。

例えば、<私の妻と寝ませんか? 冷えますからねえ>と友人から言われて、誘いに乗ってしまったベートーヴェンの不健全さを隠そうとしたというのです。

例えば、ベートーヴェンの死後に自宅で発見された宛先が書かれていない書簡「不滅の恋人の手紙」の宛先を、かつてベート―ヴェンが交際していたうら若き女弟子で、その後、ガレンベルク伯爵と結婚したジュリエッタ・グイチャルディとしてしまったのは、一人の女性を一途に愛するベートーヴェンを演出したいがためだったというのです。

例えば、ベートーヴェンが「汚い無精髭をはやし、使用済みの便器もほったらかし、風呂にもろくに入らないのに、食べ物の新鮮さにかけては極度に神経を尖らせ、気に入らなければ家政婦に卵を投げつけ罵倒する、そんな老いぼれを、もろびとの心をつかむ悲劇の巨匠と」皆に印象づけようとしたというのです。

例えば、ベートーヴェンは弟の死後、母親から奪い取った甥、カール・ヴァン・ベートーヴェンを過度に束縛し、遂にピストル自殺未遂に追いやってしまったのに、ベートーヴェンには非がなく、この事件の最大の原因はカール本人にあると強弁したというのです。

読後、楽聖ベートーヴェンのイメージが壊れてしまったのはいささか残念だが、がっちり読み応えのある意欲作です。