「残された動物たち」の、見るのが辛く、切ない写真集・・・【山椒読書論(10)】
『のこされた動物たち――福島第一原発20キロ圏内の記録』(太田康介著、飛鳥新社)――これは、見るのが辛い写真集です。
2011年3月11日に発生した東日本大震災の19日後に、福島第一原発から20km圏内の避難区域に入った著者(カメラマン)が、3カ月間に亘り撮影した「残された動物たち」の写真集です。
●一軒の屋敷の庭に残された柴犬――「このお宅には、餌も水も、彼の食べる物は何も残っていませんでした。リードは外されているのだから、どこかへ行こうと思えば行ける状態なのに。それでも彼はこの家で、じっと飼い主さんが帰って来るのを待っているのです」。
●富岡町小良ヶ浜の豚舎――「死んだ仲間の体に挟まり、身動きがとれない状態でまだ生きていた子(豚)。引き出して水を与えましたが、もう飲む力は残っていませんでした」。
●南相馬市原町区江井の厩舎――生き残った馬が「私に向かって、どうして? と問うような目で訴えている気がしましたが、それに答えることなどできよ
うはずもありません」。
●浪江町室原――「悲しいほどやせた猫たちがいました。缶詰を与えると必死にむしゃぶりつきます」。
●冨岡町半弥沢――「猪の罠に捕まり足を2本切断してしまった犬。しかし彼は自分の家を他の(野)犬や、山から降りて来る猪から守り続けています」。
●とある牧場の牛たち――「何者かにより牛舎から放された牛たちが向かった先は沼。彼らは二度と沼から上がることはありませんでした」。
「私は、ごめんよ、ごめんよ、と謝りながら写真を撮りました。私にできることは、写真を撮り、今起こっている現実を多くの人に知ってもらうこと。それしかできないのです。やがて怒りがわいてきて、チクショー、チクショーと呻きながらシャッターを切りました。その怒りは、私を含めた人間に対してのものです」――写真だけでなく、著者の言葉からも切なさがひしひしと伝わってくる写真集です。