榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

松本清張+司馬遼太郎+半藤一利の、えも言われぬ味わいの書・・・【山椒読書論(12)】

【amazon 『清張さんと司馬さん』 カスタマーレビュー 2012年3月3日】 山椒読書論(12)

清張さんと司馬さん』(半藤一利著、文春文庫)は、松本清張と司馬遼太郎という、持ち味は違うが、間口が広く、奥行きも深い作家に身近に接した編集者の半藤一利が取って置きの内緒話を語るといった趣があって、清張ファン、司馬ファン、そして半藤ファンには非常に楽しめる一冊だ。

半藤は編集者として活躍し、その後、作家としても成功した人物であるが、清張と司馬に親しく接したことが大きく影響していることだろう。半藤のような才能がなかろうと、大好きな清張の編集者、敬愛する司馬の編集者を一時でもいいから務めてみたかったというのが、私の叶わぬ夢である。

著者が、松本清張を名字でなく「清張さん」、司馬遼太郎を「司馬さん」と姓で呼ぶ背景も、本書の中で語られている。

著者の語り口を、いくつか挙げてみよう。

●清張さんもそうなのですが、作品を書くにさいしての司馬さんの資料収集と検証作業のものすごさ。・・・冗談でなく、命懸けといってもいい。つまりは、こまごまとしてエピソードやゴシップまで、文献に当たり専門家に尋ね、納得ゆくまで調べあげる。・・・とにかく徹底的なんです。

●何が楽しみで生きているのですか、と問われたら、多分ご両所とも「原稿用紙に向かうこと」と答えるに違いありません。あるいは資料を読み考えることか。

●(岩波茂雄は)・・・したたかですね。卒業後、古本屋をしているとき、人に連れられて、漱石のところに行き、朝日新聞に連載中の『こゝろ』を本にさせてくれ、と頼んで許される。つづいて、「ついては、出版費を貸して下さい」・・・おんぶにだっこでした。