榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

連れていた若妻を競りにかけて売ってしまった干し草刈りの若い男の物語・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3305)】

【読書の森 2024年4月29日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3305)

芳香を放つニオイバンマツリ(写真1~6)は、花色が濃紫→薄紫→白と変化します。ナニワイバラ(ナニワノイバラ。写真7)、ローズマリー(写真8)、ラヴェンダー(写真9)、キショウブ(写真10)、ヒアシンソイデス・ヒスパニカ(スパニッシュ・ブルーベル、シラー・カンパニュラータ。写真11、12)、アリウム・トリケトラム(写真13)が咲いています。

閑話休題、トマス・ハーディの作品は60年前に読んだ『ダーバヴィル家のテス』だけだと思い込んでいたが、読書会仲間のIndridason Arnaldur氏から「運命に逆らって破滅していく主人公が出てくる」長篇があると教えられ、『カスターブリッジの市長』(トマス・ハーディ著、上田和夫訳、潮文庫)を手にしました。

19世紀も3分の1に達しない、ある晩夏の夕暮れ、イギリスの地方の村の市が開かれている広場にやって来た若い干し草刈りの男が飲んだくれて、連れていた若妻を妻に抱かれている女児もろとも競りにかけて売ってしまうという信じ難い場面から物語が幕を開けます。

このことを猛反省して酒を断ったマイケル・ヘンチャードは、辿り着いたカスターブリッジで地道な努力を重ねた結果、今では手広く営む穀物商として成功し、市長にまで上り詰めています。そういう時に、買い取ってくれた水夫と死別した、マイケルのかつての妻スーザンが美しく成長した18歳の娘エリザベス=ジェインを連れて、マイケルに会いにやって来たのです。

それだけに止まらず、マイケルが見込んで支配人に据えた、スコットランド出身の爽やかな青年ドナルド・ファーフレー、スーザンは死んだものと思い込んでいた時期にマイケルが婚約した若い女性ルセッタ・テンプルマンなど個性的な登場人物が入り交じり、友情と反目、出世と零落、歓喜と悲嘆、一目惚れと嫉妬、結婚と破局、秘密と暴露――と目まぐるしく状況が変転していきます。

息も吐かせぬストーリー展開に、読み終わった時は,付箋で針鼠のようになってしまいました。

人生には何でも起こり得ることを痛感させられた、読み応えのある傑作です。この作品に引き合わせてくれた読書仲間に感謝!