心にぽっかり穴が開いてしまった人たちのリゾート・ホテル――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その199)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(286)】
【読書の森 2024年8月29日号】
あなたの人生が最高に輝く時(286)
●『ラストリゾート』(ロベルト・インノチェンティ絵、J・パトリック・ルイス文、青山南訳、BL出版)
時折、本棚から取り出して読み返したくなる、何とも不思議な大型の絵本がある。『ラストリゾート』(ロベルト・インノチェンティ絵、J・パトリック・ルイス文、青山南訳、BL出版)は、絵描きが、どこかへ行ってしまった想像力を見つけるまでの物語である。
「どんよりと曇っていた日だった。わたしの想像力がどこかに行ってしまったのに気がついた。わたしは絵描きだ。こまってしまった。どうやって仕事をしたらいいか、わからなくなった。いろいろやってみたが、だめだった。そこで、でかけることにしたのだ。想像力をさがしに、想像力をつかまえに」。
愛車のルノーは、どこまでも続く長い道を辿り、やがて海辺のホテルの前で止まる。入り口の所で本を読んでいる男の子に「ここはどこだい?」と聞くと、「ここは、こころにぽっかりあながあいてしまったひとたちの、リゾート・ホテルさ」という答えが返ってきた。
このホテルには、それこそさまざまな人たち――片脚の船乗り、白いドレスの弱々しい若い女性と、付き添いの看護師、灰色ずくめの小男、白いスーツの背の高い男、丸々と太った警視、複葉機の飛行士、昔風の貴族、日傘を差した黒い服の女性、痩せ馬に跨った騎士と、その従者――が泊っている。
「わたしは、満ち足りた気分で、ねむった。さがしていた想像力が、枕の下で、そっとうごきだしそうな気配がした。この魅力的な宿のおかげだろう。情熱的なお客たちのおかげだろう」。
絵も文も、実に素晴らしい。海辺にぽつんと建っているこのリゾート・ホテルに、私も泊まりたくなってしまった。