榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

こういう同世代の書き手がいることに今まで気づかなかった己の不明を恥じています・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3478)】

【読書の森 2024年10月18日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3478)

ニホンカナヘビ(写真1)をカメラに収めました。シュウメイギク(写真2、3)が咲いています。ナツメ(写真4、5)、カキ(写真6)が実を付けています。ススキ(写真7)の穂が風に揺れています。我が家のハナミズキ(写真8)が紅葉しています。

閑話休題、辺見庸の思いが籠もった文章がぎゅっと詰まった『独航記』(辺見庸著、角川書店)を読み終えて、こういう同世代の書き手がいることに今まで気づかなかった己の不明を恥じています。

とりわけ印象的なのは、●手の幻想、●王同志、●涙の紅バラ――の3つです。

●手の幻想
著者は民主カンボジアの首相時代のポル・ポトの手を握ったことがあると書いています。「祖先同様にコンポントム州のごく普通の農民の手をしていたのが、共産党員になり出世し、留学し、民族解放軍最高司令部作戦部長になり、首相になりして、手が芝居を覚えていった。ポル・ポトとサロト・サルは同一人物なのである。手が変化しただけなのだ」。

●王同志
北京特派員時代、著者の家にはコックと掃除人がいたと書き出されています。王さんという勉強熱心なコックが、著者夫妻の留守中に、洋式バスタブに浸かり、鼻歌を歌っているところを,偶々帰宅した著者に見つかってしまいます。著者が努めて冷静に注意し、王が詫びて一件落着した20年前のことを思い出した著者の結びの文章には脱帽! 「いまの私ならば、と考えたものだ。同じ局面で、王同志に『背中でも流そうか』とでも声をかけただろうか、と。猫なで声で。いやいや、ちがう、おそらく私は、ひと呼吸おいてごく単純にいったのではあるまいか。おい、同志、冗談じゃねえよ」。

●涙の紅バラ
幼なじみのJと、親に隠れて体の関係を結んだことが語られます。その結びは、「それから後のことを私はなにも覚えていない。私は上京して学生になり、就職して、さんざ悪さをして、女を夢に呼びこむのも、女の夢にすぽっと入りこんでいくのもずいぶんうまくなっていった気がする。Jのおかげだ」。