榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

老化を遅らせる治療によって、健康寿命を大きく延ばせる時が、どんどん近づいている・・・【MRのための読書論(226)】

【ミクスOnline 2024年10月25日号】 MRのための読書論(226)

死の終わり――不死の科学的可能性と倫理』(ホセ・コルデイロ、デイヴィッド・ウッド著、二木めぐみ訳、化学同人)が読者に伝えたいことは、私なりにまとめると、こういうことになるだろう。

●現代人にとって死は、私たちが解決でき、また解決すべき技術的問題なのだ。

AI

●これから先の未来、新たなセンサーや膨大な量のデータの分析(「ビッグ・データ」と呼ばれているもの)が広く使われることと、医学的な検査の結果のさらに進んだ分析や解釈にAIを使うことによって、我々はさらに大きく速い進歩を目撃するだろう。その進歩は直線的に進んでいくわけではなく、指数関数的に進んでいく。

●生物学と医学は急速にデジタル化されたので、これからは指数関数的な発展を遂げることができる。AIは生物学や医学も含むすべての分野で継続して現実にフィードバックを返すことによって、さらに大きな助けになるだろう。

出資

●近年の科学の重要な進歩のおかげで、人間の若返りの科学的な研究に、大小様々な企業が巨額の出資を始めた。人々は若返りの実現が本当にあり得ることであり、しかもその時がどんどん近づいているとわかり始めたのだ。

パラダイムシフト

●老化の研究における最近のパラダイムシフトによって、シグナル伝達経路(成長を促進する経路、DNA損傷応答経路、サーチュイン)が脚光を浴び、老化は制御でき、薬によって遅らせることができると立証された。

●老年学の最近の飛躍的な進歩は、異なる分野の融合によってもたらされた。遺伝学とモデル生物の開発、シグナル伝達と細胞周期の制御、がん細胞生物学とDNA損傷応答、薬理学と加齢関連疾患の発症機序などだ。

●加齢性の疾患を治療したり進行を遅らせたりする薬が加齢全体の進行に影響を与えられる可能背があり、それによって健康寿命を延ばすのは人類の長年の夢だ。

老化

●現在の我々人類にとって何よりはるかに大きな敵は、老化とそれに伴う疾患だ。

●我々は、老化を遅くしたり、止めたり、確実に逆行させることができると考えている。「概念実証」(新しい技術や理論の実現可能性を検証するために簡易的なテストや実験を行うこと)はほかの生物では存在しているので、今の問題はそれをヒトでも成功させることだ。理論から実践へ移る時なのだ。

長寿配当

●コンピュータを使った集中的な医学研究によって、老化の発現や影響を(おそらく無限に)遅らせることができるなら、社会には非常に大きな恩恵がある。健康を改善し、老化を遅らせることによって、短期的な投資で大きな金銭的、社会的利益を産むことができる。これは「長寿配当」と呼ばれている。

●我々は比較的近い将来に、健康寿命を永遠に延ばすための治療を受けるだろうという予測を擁護している。長寿配当を提唱した人々は、寿命を延ばせる期間が永遠ではなくて、たとえば7年間健康寿命を延ばせるだけだったとしても、経済的にも人道的にも非常にプラスになると指摘している。我々が思い描いている目標は現実に達成可能だ。控えめに言っても、老化を約7年遅らせれば、すべての加齢関連疾患と障害を減らすことができる。この目標を定めたのは、死のリスクと老化のほかの大半の悪い特徴は成人後、指数関数的に増えていくが、2倍に増えるのにおよそ7年かかるからだ。7年間老化を遅らせることが健康と寿命にもたらす恩恵は、がんと心疾患を排除するよりも大きいだろう。そして今生きている人たちがこの恩恵を受けられると我々は信じている。

勇気づけられる一冊である。