榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

生殺与奪、虚栄、貧困を、画家はどう描いたか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3545)】

【読書の森 2024年12月19日号】 情熱的読書人間のないしょ話(3545)

明け方、初雪がちらつきました。不鮮明だがエナガ(写真1)、頭部が藪の中のキジの雄(写真2)、オオバン(写真3)、カワウ(写真4)、コサギとダイサギ(写真5)、コサギ(写真6)、ダイサギ(写真7、8)、アオサギ(写真9)をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は11,792でした。

閑話休題、『名画に見る「悪」の系譜』(中野京子著、新潮社)で、とりわけ印象に残ったのは、●ジャン=レオン・ジェロームの「古代ローマの奴隷市場」(1884年頃)、●アントニオ・デ・ペレーダの「騎士の夢」(1650~70年頃)、●ルーク・ファイルズの「救貧院臨時宿泊所の入所希望者たち」(1874年)――の3作品です。

●古代ローマの奴隷市場
生殺与奪の権を他者に握られた究極の存在が奴隷と言えるでしょう。奴隷市場で妙齢の女性が全裸にされ(足下に衣服が脱ぎ捨てられている)、恥ずかしさに顔を隠す様子が描かれています。口上を述べる奴隷商人、見上げる男たち、購入を希望して上がる手、手、手。奴隷商人の足下には、次に競りにかけられる女性が座っています。何とも煽情的な作品です。

●騎士の夢
椅子の肘掛にもたれてうたた寝をしている若い騎士の目の前のテーブルにはさまざまな品物が積み重なっています。これらは彼の見ている虚栄の夢が生み出した品々です。さらに天使まで描かれています。その天使が掲げる旗には、現世の栄光も虚栄も全て空しい、死んだら終わりという教訓が書かれています。まさに、メメント・モリ(死を忘れるなかれ)ですね。

●救貧院臨時宿泊所の入所希望者たち
救貧院が臨時に配る一泊宿泊券(警察が認証した上で配布していた)をもらうため、寒空の下、雪道で震えながら警察署の壁際に列を作る老若男女の極貧者の一群が描かれています。とりわけ目を引くのは、幼い少女を連れ、俯きながら歩いている若い女性です。黒いショールにくるんだ二人目の子を産んだ前後に夫を亡くし、まだ自分では働けない状態で、家を失い、蓄えを失って、路頭に迷うことになったのでしょう。それでも、取り敢えず今夜は臨時宿泊券を手に入れることができたようです(左手に白い紙片が握られています)。誰であろうと、転落人生と無縁とは言い切れない怖さが迫ってきます。