生物好きを自任している君は、「性的対立」を知っているか・・・【薬剤師のための読書論(4)】
【薬局新聞 2012年10月24日号】
薬剤師のための読書論(4)
『恋するオスが進化する――生物学界を揺るがす「性的対立」の驚くべき最新知見』(宮竹貴久著、メディアファクトリー新書)は、薄手の本だが、生物好きには堪えられない一冊である。
21世紀の生物学界を沸かせ続けている「性的対立」――動物のオスとメスが繁殖を巡って激しく闘争しているという、驚きに満ちた発見――に的を絞った、第一線の動物行動学者の最新リポートだからである。
10年前には、ヨツモンマメゾウムシのメスを殺すトゲの生えたペニスなど誰も知らなかったし、15年前には、キイロショウジョウバエのメスを殺してしまう毒を含む精液など誰も予想もしていなかった。
「ダーウィンが(メスを巡ってオス同士が争う)オス間競争はメスとのセックスで完結すると信じて世を去ったのに対して、パーカー教授はオス間競争がセックスの後、つまり卵の受精を巡る競争まで続くことを明らかにした。パーカーはさらに、セックスがメスにとってはときに大きなコストとなり、オスとメスの利害は一致しないという考えを発展させ、提唱した。ここに初めて『性的対立』という概念が生物学界に登場したのである」。
「生物の性とセックスには、まだまだ新しい発見が隠されていると僕は思っている」、「『この不思議な現象を知っているのは、今、自分だけなのだ』と思える瞬間が研究人生において何度もある。世界で自分だけが知っている謎。これを知る瞬間をもてることこそ研究の醍醐味だ。仮説を立てて実験を重ね、やっとその謎が解けた瞬間の喜びはとても文章に尽くせない」と言える著者は、何という幸せ者だろう。