やっぱり、向田邦子の随筆は堪らないなあ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(3829)】
私たち夫婦はドネルケバブ(鶏肉)が大好きです。東京・湊の六本木まで足を延ばしたときは、昼食はケバブと決めています。夕食もテイクアウトしたケバブだが、ご覧のようにキャベツの下にはケバブが敷き詰められています。因みに、本日の歩数は11,979でした。
閑話休題、私は向田邦子が脚本を書いたテレビドラマは欠かさず見て、彼女の著作はほとんど漏らさず読んできました。そして、彼女自身を巡る関係者の書き物にもせっせと目を通してきました。
『向田邦子』(向田邦子著、小池真理子編、文春文庫・精選女性随筆集)には、向田邦子でなくては書けないエッセイが満載だが、一番痺れたのは「夜中の薔薇」の一節です。
戦争が終わって1、2年目のことだが、女学校生の「私」と、仲のよい級友は、30過ぎの独身の女の先生から間借り先に泊まりにくるよう誘われました。「今のことばでいえばグラマーで、明るい人柄だったから人気があった」。
当日は家主一家が一晩泊まりで留守だったので、先生は自分の部屋で、私たちは客間で寝たのだが、「夜中に玄関の戸を叩く音で目が覚めた。男の声がする。鍵をあける音がして、先生の押し殺したような声がつづいた。・・・玄関の戸がしまり、二人の声と共に廊下がきしみ、あとは何も聞えなかった。朝、目が覚めたら、先生が台所で鼻歌を歌いながら刻みものをしていらした。ほかには誰もいなかったが、台所の土間に、昨夜はなかったおいもや野菜があった」。
級友が、ゆうべ、泥棒が入った夢を見たと言ったのに対し、「先生は、さらりとこう言われた。『夢じゃないのよ。夜中に叔父さんが来たの。食糧を置いて、今朝一番で帰っていったわ』。先生は、前の晩よりもっと眩しく見えた」。
鼻歌、前の晩よりもっと眩しく見えた――とは、やっぱり、向田邦子の随筆は堪らないなあ。