榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ノンフィクション好きの私が、無性に読みたくなったノンフィクション5冊・・・【情熱の本箱(376)】

【ほんばこや 2021年8月30日号】 情熱の本箱(376)

ノンフィクション好きの私にとって、選りすぐりのノンフィクション100冊の書評が収録されている『HONZが選んだノンフィクション(完全版)』(成毛眞編著、中央公論新社)を読まずに済ますわけにはいかないのは、当然といえば当然である。

100冊の中には、既に読んだ本が多く含まれているが、どうしてこの本を見逃していたのだろうと唇を噛んだ作品が5冊ある。

「ノンフィクションは読んで字の如く、フィクション以外の著作すべてである。ノンフィクション作家は膨大な時間を費やし一冊の本を書き上げる。その情熱を受け取った本のマニアであるメンバーが『こんなに面白い本があるんだよ』と自慢するように熱いレビューを書く。読み終わった直後の興奮、それがHONZのレビューの醍醐味だ」。

●『スノーボール・アース――生命大進化をもたらした全地球凍結』(ガブリエル・ウォーカー著)
レビュアー・久保洋介の書評のタイトルは、「ロマンとワクワクに満ちた科学書」。
「スノーボール・アース(『全地球凍結仮説』とも呼ばれている)とは、先カンブリア紀に北極から赤道まで地球はほぼすっぽり氷に覆われていたという仮説だ。初耳だとにわかに信じがたいが、(本書の主人公)ポール・ホフマンたち地質学者は本気で地球は全面的に凍ったと考えた。提唱された当初は、あきらかに常軌を逸したアイデアだ。・・・激しやすい性格のポール・ホフマンはこれら反対論を論理的な説明と証拠によって次々とねじ伏せていく。まるでRPGゲームのように、次から次へと強敵(反論)が出てきては、それらを自説で打ち負かしていく。たまに追いつめられてもうダメかという局面もあるが、不思議とタイミング良く助け舟(他の科学者の新しい発見)が出てくるのである。このあたりになると物語にグイグイと引き込まれてしまい、時間を忘れてページをめくってしまう。常軌を逸したアイデアが世の中の常識になろうとしている歴史的な過程をまさに追えるのである」。

●『友達の数は何人?――ダンバー数とつながりの進化心理学』(ロビン・ダンバー著)
レビュアー・成毛眞のタイトルは、「上質な科学トリビアが満載」。
「しかし、このダンバー数についての記述は全20章中たった1章のみなのだ、じつは本書は生物の進化を縦糸にし、科学の森羅万象を横糸として織り上げたタペストリである。ひどく上質な科学トリビアも織り込まれている」。

●『狂うひと――「死の棘」の妻・島尾ミホ』(梯久美子著)
レビュアー・東えりかのタイトルは、「あの事件の真相が語られる!?」。
「島尾夫妻が最後まで隠そうとした事実もまた発見された。ミホが心を病む原因となった敏雄の日記は破棄されたと思われていたが、古い紙箱に無造作に入れられた紙片が見つかる、写真で見るとなにか禍々しいものが取り憑いているようだ。梯は11年の歳月をかけ、残されていた膨大な資料を詳細に検討し、敏雄とミホが残した作品や手紙などと突合せ、『死の棘』には何が描かれていたか、二人の間にはどのような信頼と裏切りがあったのかを具体的に積み上げていく。それは今までの文学評論とは全く違う、生々しく愚かな人間を辿る旅になった。初めて公開される資料や写真には『死の棘』でさえ穏やかだと思える妄執が渦巻いていた」。

●『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?――経営における「アート」と「サイエンス」』(山口周著)
レビュアー・堀内勉のタイトルは、「人生を評価する自分なりのモノサシを持て」。
「グローバル企業が著名なアートスクールに幹部候補を送り込むのは、これまでのような『分析』『論理』『理性』に軸足をおいた、いわば『サイエンス重視の意思決定』では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできないという認識があり、単なる教養を身につけるためではなく、極めて功利的な目的のために『美意識』を鍛えるためだというのである。本書の執筆にあたって、著者が多くの企業・人にインタビューした結果、そのように考える具体的な理由として共通して指摘されたのは、次の3点だと言う。・・・」。

●『宿命――國松警察庁長官を狙撃した男・捜査完結』(原雄一著)
レビュアー・首藤淳哉のタイトルは、「『真犯人』はなぜ封印されたのか」。
「結果的にこの『中村(泰)犯行説』は正しかった。・・・なにしろ著者は実際に中村を取り調べた当事者なのだ。頭脳明晰なうえ、複雑な内面を持ったこの老スナイパーとの攻防は、ぜひ本書をお読みいただきたい。個人的には『そうだったのか!』と疑問が氷解するくだりがページをめくるたびにあって、時が経つのを忘れて読書に没入した」。

優れた書評というのは、その書評を読んだ人間を、その本に突進させる瞬間起爆装置だということを再認識させられた。