怒りっぽい人間が怒らなくなる方法・・・【リーダーのための読書論(47)】
怒りっぽい私は、いろいろな失敗を経験し、そのたびに自己嫌悪に陥ってきたので、『怒らないこと――役立つ初期仏教法話1』(アルボムッレ・スマナサーラ著、サンガ新書)を繙いてみた。
怒らない方がよいと分かっているのに、私たちはなぜ怒るのか。人間というのは、いつでも自分は正しい、相手が間違っている、と思うから怒るのだ。また、自分のやることがうまくいかないときに、自分に対し怒るというケースもある。そして、怒り癖が身についてしまうと、なかなか直すことができなくなるというのだ。
著者は、怒りは私たちにさまざまな悪影響を与えていると言う。怒りが生まれると、喜びが失われ、長く不幸を感じることになる。すなわち、怒りが幸福を壊すのだ。その上、怒りはその人間を不幸にするだけでなく、周りの人々に大きな迷惑をかけ、他人の幸福まで奪ってしまう。
では、どうすればよいのか。自分は完全な人間ではないし、他人にも決して完全を求めないと考えるようにすれば、怒りは出現しない。そして、怒りを抑える、怒りを我慢するというのは大間違いで、そんなことでは怒りは消えない。怒りが生まれたら、「あっ、怒りだ。これは怒りの感情だ」と直ちに自分を観察することを、著者は勧めている。そうすると、怒りはその瞬間に消えてしまい、非常に気持ちよくなり、幸福を感じることができる。怒ったその瞬間に自分の怒りに気づくことを繰り返していると、自分に自信がついてきて、「あっ、怒りが消えちゃった。我ながら自己コントロールがうまいぞ」と自分を褒めることができるようになるというのである。
『怒らないこと』はブッダ(仏陀。釈迦)の教えに基づいて書かれている。ブッダにとって最大のテーマは「死」であったが、「死」を最新科学の面から解明しているのが、『ヒトはどうして死ぬのか――死の遺伝子の謎』(田沼靖一著、幻冬舎新書)である。中身が濃い、目から鱗が落ちる好著だ。
成人の身体は約60兆個の細胞でできているが、1日に3000億~4000億個の細胞が死んでいる。一方で、死んだ分だけ細胞は補われる。そして、細胞には3つの死に方がある、と著者は言う。①打撲や火傷といった外部からの刺激、心筋梗塞などで見られる強い虚血などが原因で起こる「細胞の事故死」ともいうべきネクローシス(壊死)、②分裂・増殖する再生系の細胞が内外から得たさまざまな情報――「あなたはもう不要な細胞ですよ」というシグナルや、「自分は異常を来して有害な細胞になっている」というシグナル――を総合的に判断して「自死装置」を発動する「細胞の自殺」ともいうべきアポトーシス(自死)、③脳の中枢の神経細胞や心臓の心筋細胞のように、ほとんど増殖せずに生き続ける非再生系の細胞が「自分の寿命が尽きた」と判断して「自死装置」を発動する「細胞の寿命死」ともいうべきアポビオーシス(寿死)――の3つであるが、②と③は、遺伝子にプログラムされた細胞の死である。
臨床医学の分野では「異常な細胞・組織を取り除くこと」が治療の基本と考えられてきた。しかし、アポトーシスの研究が進むにつれ、「さまざまな疾病の根本的な治療法として、アポトーシスをいかに制御するかが重要だ」と、発想の転換が起こってきた。この観点から、医薬品開発の方向性を逆転させるゲノム創薬の最前線が解説されているので、大変勉強になる。
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