ルート・セールスでトップ営業担当者に変身したいあなたに・・・【山椒読書論(319)】
『トップセールスの段取り仕事術』(小森康充著、PHPビジネス新書)は、新書判200ページの中に、あなたがトップ営業担当者に変身するための具体的な戦略・戦術がぎっしりと詰まっている。私の長いMR経験から判断しても、本書に書かれていることの一部を実行に移すだけでも、相当の実績アップを実現することができるだろう。世界最大の日用品メーカー・P&Gのトップセールスとして鳴らした著者の実体験に基づいているだけに、強い説得力がある。
営業にはさまざまな業態がある。著者の営業やMR活動のように、複数の特定の得意先を長期間担当するため、よくも悪くも人間関係が蓄積されていくルート・セールスに関しては、最高の実戦用テクストブックと言える。
著者は、「私には決して、生まれつきの才能があったわけではありません。無口で、ぶっきらぼうで、笑顔もなく、営業の才能などかけらもありませんでした」と述べている。そして、その営業スタイルを一言で表現すると、「私は、商談の前に、情報収集をして徹底的に準備をして、提案をすることで、自分のお客様の心の窓を開き、トップセールスを実現しました」となる。「ビジネスのスピードがますます速くなる今、お客様は忙しく、暇な時間などありません。一人の営業(担当者)に使える時間は限られています。つまり、最初に『心の窓』が閉じてしまうと、それっきりの関係になってしまうのです」。ここに、ルート・セールスの厳しさ、恐ろしさがあるのだ。
商談成功の鍵は、事前の目標設定にある、と著者は言う。著者の「具測達一」の原則とは、①具=目標は、具体的でなければならない、②測=目標は、測定可能でなければならない、③達=目標は、達成可能でなければならない、④一=目標は、(会社、上司、得意先の目標と自分の目標の)一貫性がなければならない――というものである。そして、目標達成という成果を上げる5つのポイントは、①自分より大きな目標を達成した人に教えてもらう、②ナンバー1になるもの(得意技)を持つ、③自分が目標達成しているイメージを持つ(思い描く)、④上司や周囲から援助を得やすいようにしておく、⑤上の人の立場になって考える――と具体的である。
商談の説得力を高めるには、段取りが必須と断言している。先ず、「お客様は何に関心があるのか」を把握し、段取りどおりに事前準備をしっかりと行う。得意先の課題解消をサポートすることが営業の第一義であり、それが受注という成果に結びつくのだ。この際、「関心度チェックシート」「得意先情報シート」の活用を勧めている。
得意先の優先順位を決める著者の方法はなかなかユニークだ。「増加見込み売り上げ(万円)×成功可能性(%)=期待値(万円)」を計算し、これに加えて、タイミング、コスト、一貫性(「具測達一」の「一」)も考慮せよというのだ。この作業に当たっては、「ビジネスチャンス分析シート」を使用すると便利だ。
優秀な実績を上げ続けている営業担当者は、外勤時間を多く確保している。内勤時間を可能な限り減らし、得意先を訪問する時間を最大化するための方法が挙げられている。①毎日の「することリスト」を作成する、②やるべきことの優先順位をつける、③重要なことからやり始める、④大きな仕事は分解して一つひとつ処理する、⑤一つひとつの仕事に対して目標を設定し、必ず次のステップを決定する、⑥まわりの人のスケジュールを把握する、⑦1枚の紙は一度しか手に取らない(一度手に取った書類はその場で、「ファイルする」「上司に報告する」「返事をメールする」「ゴミ箱に捨てる」と決めて、二度と手に取らない)、⑧常に「いまいちばん良い時間の使い方は何か?」を考える――の8つである。私がMR時代から実行してきたことと完全に一致しているので、驚いてしまった。
「『心の窓』が開いていなければ絶対売れない」というのが、著者の固い信条だ。お客様の心の窓を開くためには、①正直、誠実な態度で接する、②コンタクト回数を増やす、③相手を宝物だと思う――の3つを実行して、信頼関係を築くようアドヴァイスしている。「トップセールスはお客様の心の窓を全開にする技術に長けており、そこで効果的なクロージングをして契約をとっているのです」。
実績不振で悩んでいる人はもちろん、現在、実績が好調の人にも一読を勧めたい。なぜなら、どんなに優秀なビジネスパースンであっても、常に順風満帆とはいかないのが、営業の世界なのだから。