DeNA創業者の自伝にして、すったもんだの起業苦闘物語・・・【続・リーダーのための読書論(28)】
著者が大切にしていること
『不格好経営――チームDeNAの挑戦』(南場智子著、日本経済新聞出版社)は、「総合インターネットサービス企業」ディー・エヌ・エー(DeNA)の創業者・南場智子の正直な自伝であり、すったもんだの起業苦闘物語である。著者はこの初の著書について、「私のこの本は、またBマイナスだろうか」と謙遜しているが、内容、表現、ユーモアのいずれも間違いなくトリプルAだ。
著者は、安易に起業しようとするな、起業はこんなに大変だぞ、しかし、どうしても起業したいのなら、とことん頑張れ、というメッセージを発している。CSOという事業をゼロから立ち上げた私の経験から言っても、新たに会社や事業を立ち上げ、軌道に乗せることと、組織内で実績を上げ、出世することとは、次元が全く違うのだ。
社長としての著者は、採用活動を最重視している。「創業期から一貫して多大な時間とエネルギーを費やしてきたのが採用活動である。DeNAの競争力の源泉は、とよく訊かれるが、答えは間違いなく『人材の質』だ。人材の質を最高レベルに保つためには。①最高の人材を採用し、②その人材が育ち、実力をつけ、③実力のある人材が埋もれずにステージに乗って輝き、④だから辞めない、という要素を満たすことが必要だ」。そして、「私が採用にあたって心がけていることは、全力で口説く、誠実に口説く、の2点に尽きる」。
事業リーダーとコンサルタントの違いは、起業前の著者がマッキンゼーのパートナー(共同経営者)であっただけに、興味深い。「(起業後、社長として)不完全な情報に基づく迅速な意思決定が、充実した情報に基づくゆっくりとした意思決定に数段勝ることも身をもって学んだ。コンサルタントは情報を求める。それが仕事なので仕方ない。これでもか、これでもかと情報を集め分析をする。が、事業をする立場になって痛感したのは、実際に実行する前に集めた情報など、たかが知れているということだ。本当に重要な情報は、当事者となって初めて手に入る。だから、やりはじめる前にねちねちと情報の精度を上げるのは、あるレベルを超えると圧倒的に無意味となる。それでタイミングを逃してしまったら本末転倒、大罪だ」と、実に歯切れがよい。
心に残る人間ドラマ
川田、春田、守安といった社員たちや、信國という支援者、そして、夫との人間ドラマには、ホロリとさせられる。
戻る | 「第7章 仕事にロマンを」一覧 | トップページ