榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

優雅な生活が最高の復讐であるという生き方・・・【続・リーダーのための読書論(60)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2015年12月17日号】 続・リーダーのための読書論(60)

恨みを科学的に捉える

正しい恨みの晴らし方――科学で読み解くネガティブ感情』(中野信子・澤田匡人著、ポプラ新書)は、根強い恨みを抱いている人に救いの手を差し伸べてくれるが、それが科学的である点が類書と異なる。

心理学の視点から

「他人の不幸を利用したエンターテイメントによって少しでも溜飲が下がるのだとしたら、それこそ、まさに『正しい恨みの晴らし方』の一つといえるでしょう。私たちは、期せずして、自分の恨みを誤魔化す術を知っていたのです」。「シャーデンフロイデとは、他人の不幸を喜ぶ感情です。『妬みとは他のものの幸せを見て悲しみにつつまれ、反対に他のものの禍を見て喜ぶように人が動かされるかぎりでの憎しみである』。これは、17世紀に活躍したスピノザという哲学者が残した言葉です」。

「心理学では、羨みに近い妬みを『良性妬み』、ネガティブなニュアンスの強い妬みを『悪性妬み』という風に分けて考えるのが研究のトレンドです」。

「相手が持っているものを自分も手に入れられるかどうかを判断しているからです。言い換えれば、自分と相手との差がわずかだと感じれば感じるほど、妬みが強くなっていきます。競争できる見込みがある相手だからこそ、妬ましいのです」。「手が届きそうで届かない、その微妙な差こそが、妬みを育む土壌となっているのです」。

脳科学の視点から

「妬み感情は、ヒトが生き延びてくるために必須だった感情で、進化の過程で遺伝子に組み込まれた重要な機能なのだといいます。妬み感情があることで、ヒトでは『できるだけ多くのものを手に入れたい』という絶対評価でなく、『<周囲の他の個体と比べて>より多くのものを得る』という相対評価が、エサ探しやパートナー探しなどの行動を促進する原動力となるのです」。

妬み・恨みの対処法

先ず、深呼吸をして、自分が何を妬んでいるのか、誰を恨んでいるのかを考えてみる。続いて、自分の妬みを抽出して、徐々に妬みの原因を炙り出していく。そして、自覚できるようになった妬みの感情を脇に置いて、目の前にあること、やるべき仕事に没頭せよと勧めている。こうして妬みから目を背けることなく距離を置ければ、名状しがたい感情に振り回されずに済むというのだ。それでも、どうしても妬まずにいられないときは、自分を冷静に眺めている「もう一人の自分」の力を借りる。「妬む気持ちはよく分かる」、「どうしてもやりたかった仕事を取られたのだから悔しいに決まっている」と、妬みの感情を抱いている自分を、自分自身でしっかりと受け止めてやるのだ。また、「妬ましい」と誰にも言えずに悶々としているくらいなら、「羨ましい」と断言する。つまり、悪性妬みではなく良性妬みなのだと、敢えて強調し、他人の優位性を認めてから、自分を激励するのである。

「恨みも妬みも嫉妬も、ネガティブ感情を思う存分に燃やして暴れるのも自由、上手にコントロールして、自己の成長を図ろうとするのも自由。満足のいくように、最高に優雅な生き方を自分でデザインして、そのように生きることが、不条理な世界に生まれた私たちの、その恨みを晴らすためにできる、最大の復讐ではないでしょうか」という開き直った言葉が印象に残った。