榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

東京でもがきながら、36歳の女性が発見した幸せとは・・・【続・リーダーのための読書論(66)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2016年6月13日号】 続・リーダーのための読書論(66)

東京という街

東京を生きる』(雨宮まみ著、大和書房)は、自分を扱いかねている30歳代の女性に生きるヒントを与えてくれるかもしれない。

著者は、大学に入るため福岡から上京し、大学卒業後、フリーター、出版社勤務を経て、フリーライターとして活躍している36歳の女性。「ほかの街では、夢を見ることができない。ほかの街では、息をすることもできない。そう思いながらも、ときどき東京にいることに息苦しさを感じて、どこかに行きたくてたまらなくなって、知らない街に行くとほっとする。矛盾している。東京以外の場所にいると、自分が日常の輪郭を失い、何者でもない自由な人間であるような気持ちになる。その感覚を求めて、さまざまな街を渡り歩きながら生きていったって、いいのだろう。だけど、輪郭をすべて失ってしまうには、まだ早すぎるのだ。はっきりとした輪郭なんて、まだ持てていないのだから」。

幸せとは

「東京に出てきて、私はいつも、セックスに飢えている気がする。してもしても、まだ足りないような気がする」。「地獄に一緒に落ちてくれる男と、泥にまみれるようなセックスがしたい」。「どこかに私の知らない、深い深い快楽がある。それに向かってどのように手を伸ばせばいいのか、私にはまだわからない」。

「ときどき、何も捨てずにいる人を見かける。喋りたい方言で喋り、怒りたいときに怒り、洗練なんかを目指さない人を。・・・何の殻もまとわず、ただ自分自身でそこに立っていて、世界のどこへ行っても、そのままのその人であり続ける人。野蛮で美しく、いびつで、でもそのことが洗練そのもののように思える人。私がなりたかったのは、そういう人ではなかったのだろうか」。

「30歳を過ぎたら、遊びのセックスの対象としてすら楽しみにされるような存在ではなくなるのだと思った。男に楽しみにされないような女。女からも同情の視線を投げかけられる女。そんな女である人生のどこに喜びを見出せばいいのかわからなかった。早く結婚するか、早く死ぬか、どちらかしかないように思えた。30歳より先の人生は、真っ暗闇に見えた。30歳を過ぎ、35歳を過ぎ、私は、以前暗闇だった道を平気で歩いている」。

「今なら、みんなの言っていた『幸せ』がどういうものなのか、少しはわかる気がする。それは、『絶望しないための工夫』なのだと、『生きてゆくための知恵』なのだと、わかる。生きていることがつらいと思わないための『幸せ』なのだろう」。

読み終わって、これは、年齢に関係なく、性別に関係なく、読む者に生きる勇気を与えてくれる書なのだと気がついた。