大好きな牛若丸と再会できた日――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その141)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(228)】
●『牛若丸』(近藤紫雲画、千葉幹夫文・構成、新・講談社の絵本)
幼い頃から現在に至るまで、私の最大の趣味は、読書である。本好きになった原点、そして歴史好きになった原点は、講談社の「牛若丸」という絵本であった。何度も何度も読み返し、読むたびに牛若丸になったような気分に浸っていた。
何十年ぶりかの小学校の同期会で、同じクラスだった女性から「榎戸君って、昼休みや放課後に、よく本の話や歴史の話、牛若丸の話を熱心にしてたわよね。あまりに詳しいので、みんな、びっくりしてたの、覚えてる?」と言われた時、記憶が定かでなかった私は、その女性の記憶力のよさに驚いてしまった。この会話を耳にした、もう一人の女性が「そう言えば、劇で榎戸君が五条の橋で弁慶と戦う牛若丸に扮したことがあったわよね」と言い出したので、日本舞踊を習っていた妹の着物を借りて演じたことを思い出した。
あんなに大事にしていた「牛若丸」の絵本は、どこへ行ってしまったのだろう。まだ赤ん坊の牛若丸(後の源義経)を懐にくるんで、大雪の中を落ち延びていく母・常盤御前と幼い兄、二人が描かれた絵。五条の橋で、弁慶と戦うシーン。平家との戦いに立ち上がった兄・頼朝のもとに駆けつけ、対面する場面――これらの絵は、今でも瞼に鮮明に焼き付いている。
「牛若丸」が復刻されていると知り、『牛若丸』(近藤紫雲画、千葉幹夫文・構成、新・講談社の絵本)に再会した時は、懐かしさが込み上げてきた。
「いまから八百四十年ほどまえ。源氏の大将源義朝は、平家の大将平清盛とたたかって、やぶれてしまいました。義朝の妻、常盤御前は赤ん坊の牛若丸をむねにかかえ、七つの今若と五つの乙若の手をひいて、都からとおいいなかへと、おちのびていきました。つめたい雪のふる日でした」と始まる、簡にして要を得た文章と、気品ある絵は、大切な思い出を裏切らぬものであった。
書斎の「愛読書の書棚」に、早速、「牛若丸」が加わったことは言うまでもない。