榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

スキャンダラスな変身物語――老骨・榎戸誠の蔵出し書評選(その314)・・・【あなたの人生が最高に輝く時(401)】

【読書の森 2024年12月21日号】 あなたの人生が最高に輝く時(401)

●『めす豚ものがたり』(マリー・ダリュセック著、高頭麻子訳、河出書房新社)

めす豚ものがたり』(マリー・ダリュセック著、高頭麻子訳、河出書房新社)は、スキャンダラスな変身物語である。

香水店で客たちへのセクシュアル・サーヴィスの仕事をしている、若い娘である「私」は、いつの間にか、雌豚に変身してしまう。豚になると、辛いことや、惨めな思いをさせられることが多いのも事実だが、一方では、「私は、自分の運命に不満はない。食べ物はおいしいし、心地良い空き地がある。私は、なるがままにまかせていることが多い。朝起きたときの自分の周りの暖かい土。腐植土の匂いと混ざり合った自分の体の臭い。こうしたものに勝るものは何もない」と安らぎを感じている。

かつて彗星のように文壇にデビューした著者はエリート女性ということだが、評論家のように、その創作意図をあれこれ穿鑿するよりも、想像力を膨らませて味読すべき本だと思う。