榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

日本人が直面している22の課題について、自分の頭で考えてみよう・・・【MRのための読書論(181)】

【ミクスOnline 2021年1月25日号】 MRのための読書論(181)

タテ・ヨコ・算数

自分の頭で考える日本の論点』(出口治明著、幻冬舎新書)は、現在、日本人が直面している22の重要課題について、率直かつ縦横に論じている。

それぞれの課題が、「基礎知識」部分と「自分の頭で考える」部分から構成されており、自分の頭で思考する力――著者の言うタテ(世界の歴史)・ヨコ(世界の現況)・算数(ファクト<事実>、ロジック<論理>)――が身に付くよう工夫されている点が、本書の大きな特色となっている。

著者の考え方

●日本の新型コロナウイルス対応は適切だったか。「ウィズコロナの時代とアフターコロナの時代の戦略を峻別すること」。
●新型コロナ禍でグローバリズムは衰退するのか。「ワクチンや治療薬が開発されてアフターコロナの段階に入れば、世界はふたたびグローバル化に向かう」。
●日本人は働き方を変えるべきか。「『メシ・フロ・ネル』の生活を改め『人・本・旅』の生活に切り替えること」。
●気候危機(地球温暖化)は本当に進んでいるのか。「近年の気候変動の主たる原因は温室効果ガスの排出による地球温暖化だろうということで、世界の研究者の間ではほぼコンセンサスが確立しています」。「火力発電をゼロにできないとしたら、排出ガスの量が石油や石炭より少ない天然ガスにシフトするなど。さまざまな方法を試行錯誤して、知恵を絞っていくしかありません」。
●憲法9条は改正すべきか。「現状では日本国憲法を変えるべきだと感汁ところはほとんどありません。・・・理念としては大変よくできていて、コンテンツにおいてとくに困ったところはないと僕は考えています」。
●安楽死を認めるべきか。「現実的なレベルでこのテーマを考えると、カギはACP(まだ元気なうちに、将来、自分の意思決定能力が低下したときに備えて、望む医療や介護の方向性について、本人が家族や医師や介護提供者などと話し合いを持ち、コンセンサスを共有しておこうという仕組み)にあると思います」。
●日本人社会のLGBTQへの対応は十分か。「2周も3周も周回遅れの日本で、LGBTQや障がい者など少数派の人たちが安心して暮らせる社会の実現は、急務です」。
●ネット言論は規制すべきか。「メディアが率先することで、情報発信は名前を出して行うのが当たり前だという環境が醸成されていくのだと思います。それに加えて、メディアは徹底してファクトチェックを行うべきです」。
●少子化は問題か。「少子化問題は国の行く末を左右するきわめて大きなテーマです。政府は幼児教育・保育を無償化し、待機児童ゼロを目標に掲げ、保育の拡充を進めていますが、なすべきことはまだまだたくさんあります」。
●日本は移民・難民をもっと受け入れるべきか。「日本が経済の閉塞状態を打破し、社会が成長していくためには、移民や難民のダイバーシティにあふれた優れた能力を借りることが不可欠です」。
●日本はこのままアメリカの「核の傘」の下にいていいのか。「日本にとって本当の安全保障上の問題があるとすれば、それは中国や北朝鮮ではなく、やはりアメリカとの関係でしょう。・・・冷戦が終結してしまえば、アメリカにとって日本はかつてほどの価値はありません。ですから、日本の危機は実は冷戦崩壊から始まっているのです。・・・いつまでも冷戦時代の思考パターンのままでいると、アメリカのほうが『同盟相手として信頼できない』と思うかもしれません。そうなったときが、日本にとってもっとも危機的な状況になるでしょう」。
●人間の仕事はAIに奪われるのか。「僕は基本的に楽観論者なので、AIに仕事を奪われて人間のすることがなくなるという悲観論には与しません」。
●生活保護とベーシックインカム、貧困対策はどちらがいいのか。「僕は問題の立て方が間違っていると思います。貧困対策は『生活保護か、ベーシックインカムか』ではなく、『厚生年金保険の適用拡大か、ベーシックインカムか』だと考えてります。・・・厚生年金保険の適用拡大は一石五鳥の政策です」。
●がんは早期発見・治療すべきか、放置がいいのか。「近藤(誠)氏の主張に対する医師・研究者らの評価はほぼ一致しており、現在の医療に求められるエビデンスレベルでは、近藤氏の主張は論争に価しないといえる。・・・長年自分の健康状態を把握してくれている主治医に相談するのが一番だと思っています」。
●経済成長は必要なのか。「このテーマに対する僕の答えはシンプルで、『経済成長は必要に決まっている』です」。
●自由貿易はよくないのか。「日本は資源のない国なので、自由貿易を掲げ、他国と国際協調していく以外に、生き残る道はありません」。
●投資はしたほうがいいか、貯蓄でいいか。「『72のルール』で考えれば、現在のような低金利下では、お金を殖やしたい場合には貯蓄では意味がないことがよくわかります。一般論で述べれば、金利が低いときは貯蓄より投資ということになります」。
●日本の大学教育は世界で通用しないのか。「教職員も学生も世界中から優秀な人材を集め、中長期的には、秋入学を前提として、日本語だけではなく英語入試、英語による教育・研究を行っていかなれれば、世界のトップクラスに追いつくことはできないと思います」。
●公的年金保険は破綻するのか。「この基本的な仕組みを知れば、日本という国が潰れ、国民がいなくならないかぎり、公的年金保険が破綻することはないことがよくわかります」。
●財政赤字は解消すべきか。「日本の財政はもはや危険水域に突入しているという認識が必要です。これまでに積み上がった借金は当面は借り換えで凌ぐとしても、一刻も早くプライマリーバランスを回復する必要があると思います。つまり、これ以上借金を増加させないことが肝要です」。
●民主主義は優れた制度か。「人間の貧弱な脳みそは、民主主義よりマシな政治形態をまだ考え出していないだけだということです。・・・民主主義がうまく機能するには、やはり有権者が勉強することが必要です」。
●海外留学はしたほうがいいのか。「海外留学は絶対にしたほうがいいと思います」。

私の考え方

ごく一部を除いて、著者の考え方、判断に賛成である。それどころか、さすが出口治明という、目から鱗が落ちる指摘が多いのだが、「原発は廃止すべきか」という重要課題が漏れているのは、何とも残念だ。