榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。・・・【ことばのオアシス(32)】

【薬事日報 2010年4月28日号】 ことばのオアシス(32)

てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。

――安西冬衛

何とも想像力を掻き立てられる、安西冬衛(ふゆえ)の「春」と題した一行詩。「てふてふ」は「ちょうちょう(蝶々)」の歴史的仮名遣い、「韃靼(だったん)海峡」は「間宮海峡」のこと。「てふてふ」と「韃靼海峡」の対比――平仮名VS画数の多い漢字、柔らかい音(おん)VS力強い音、蝶の小ささVS海峡の大きさ、ひ弱いイメージVS厳しいイメージ――が鮮やか。さらに、蝶がひらひら飛ぶ様を「てふてふ」で視覚的に巧く表現している。

因みに、萩原朔太郎が「『てふてふ』は『チョーチョー」と読むべからず。『蝶』の原音は『て・ふ』である。蝶の羽が空気を打つ感覚を写したもの」と、いかにも彼らしい注文を付けている。