榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

出ない杭は腐る・・・【ことばのオアシス(108)】

【薬事日報 2012年12月17日号】 ことばのオアシス(108)

出ない杭は腐る

――山下惣一

農業の傍ら創作活動を続ける山下惣一の言葉。『だから農家は論より証拠』(山下惣一著、家の光協会)で、「その地方で長く使われてきたことわざ、つまり俗諺には含蓄の深いものが多い。私が好きなものに『出る杭は打たれる』『出過ぎた杭は打たれない』がある。それにもう一つつけ加えて「出ない杭は腐る」と三点セットにすれば申し分ない」と述べている。

早朝研究会で日置弘一郎が講演の中で引用したこの言葉が強く印象に残ったので、日置の著書『「出世」のメカニズム――<ジフ構造>で読む競争社会』(講談社選書メチエ)にも手を伸ばしたのだが、実績と潜在能力の間に潜む不思議なメカニズムが興味深く考察されている。

『だから農家は論より証拠』は、農業を愛する男の情熱と怒りが漲っている快著である。1992年に出版されたものだが、日本の農業を巡る厳しい状況は一向に改善されていないことを痛感させられる。「これからも、これまでのようにこの村で生きていく基本方針なのである。わが家もそのつもりで、長男が農業を継いで6年目である(伴侶も決まった)。しかし、みんな困っている。ほとほと途方にくれている状態だ。私の知るかぎり、村の人たちがこれほど自信をなくし、前途を見失っている時代はない」、「何を考えとるんだよ、まったく、百姓をナメたらあかんでよ」、「農に生きる者の無念さを如何にせん」、「つねに、自分の物差しを当てて計り直す主体性が必要だ、とつくづく思うこの数か月だった」、「まったく、ドブ川に叩き込んで13回ぐらい踏んづけてやりたい気分だった」、「百姓は論より証拠だから、その人の作物を見れば、どんな百姓であるかは一目瞭然だ」、「女たちが輝いている農村をつくろう!!」――と、著者の面目躍如である。

我々にとって代表的な競争は、進学競争と組織内の昇進競争である。競争の存在は社会を活性化すると考えられている。しかし、常に競争の勝者になれるとは限らない。そこで、敗れた後のケアをどのようにするか、さらに、競争に注ぎ込むエネルギーが無駄にならないような競争を設計できないか――という課題が生じてくる。『「出世」のメカニズム』の著者は、この課題を「ジフ(Zipf)構造」という新たな視点で考え直そうというのである。ジフ構造とは、一言で言えば、組織のメンバーの実績(あるいは評価)が、正規分布とはならずに、特定の数人が飛び抜けて突出するような現象のことである。