突如、姿が消えてしまった3歳の息子に何が起こったのか・・・【山椒読書論(159)】
【amazon 『青く深く沈んで』 カスタマーレビュー 2013年3月17日】
山椒読書論(159)
エンタテインメント小説はあまり読まないのだが、この分野に造詣が深い児玉清が絶賛しているのを知り、『青く深く沈んで』(ジャクリーン・ミチャード著、長野きよみ訳、新潮文庫。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)を読んでみた。
アメリカのウィスコンシン州マディソンで、ベス・カッパドーラは夫のパッド、3人の子供(7歳のヴィンセント、3歳のベン、赤ん坊のケリー)と、平凡ながら幸せな家庭を築いていた。ベスは、15年ぶりの高校の同窓会に出席するため、子供たちを連れて、故郷のシカゴへ向かう。かつてのボーイフレンドや旧友たちとの久しぶりの再会を思って胸を躍らせるベス。
ところが、宿泊手続きのために、ほんの少し目を離した隙に、ホテルのロビーからベンの姿が消えてしまう。当初は迷子になったと思われていたが、やがて、誘拐事件と判明する。
警察による必死の捜索が続けられたが、手がかりが得られないまま、時が過ぎてゆく。
事件から9年の歳月が流れた夏のある日、思いがけないことが起こる。一人の少年が庭の芝刈りのアルバイトとしてベスの家に現れたのだ。何と、その少年は消えてしまったベンにそっくりではないか。
9年前に何があったのか。謎解きのサスペンスが我々を鷲掴みにして、最終ページまで離さない。
そして、同時に、親にとっての子供、子供にとっての親とは何なのか、兄弟とは何なのか、夫婦とは何なのか、家族とは何なのかという重い問題を、我々に突きつけてくる。この意味で、この作品はエンタテインメント小説の範疇を逸脱している。