榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

裸で出っ歯で、女王・兵隊・雑役係・ふとん係の階級があるネズミ・・・【山椒読書論(173)】

【amazon 『ハダカデバネズミ』 カスタマーレビュー 2013年4月6日】 山椒読書論(173)

上野動物園で初めてその生物と出会った時、脇から覗き込んだ女房は、「えーっ、気持ち悪い! でも、前歯が大きい!」と声を上げた。しかし、この驚きはほんの入り口に過ぎなかった。『ハダカデバネズミ――女王・兵隊・ふとん係』(吉田重人・岡ノ谷一夫著、岩波科学ライブラリー)には、さらに信じられないことが書かれていたのである。

ハダカデバネズミは漢字で書けば「裸・出歯・鼠」であり、その名のとおり、毛が無く裸の全身は薄いピンク色でしわくちゃで、その上、極端に出っ歯なネズミである。見る者に強烈な印象を与える奇妙奇天烈な外観である。体長10cmほどの数十匹が幾重にも重なり合っているかと思うと、狭いトンネルの中を活発に動き回っている。これだけでも十分衝撃的だが、彼らの群れには、女王デバ(ハダカデバネズミの略称)、王様デバ、兵隊デバ、働きデバ、ふとん係デバという階級があるというのだ。さらに、彼らは盛んに鳴き声を発するのだが、自分より上位の個体に出会ったときは、ピュウピュウと挨拶するというのだ。

ハダカデバネズミは、東アフリカで地下に迷路のような長いトンネルを掘って集団で暮らしている。1匹の女王が群れ全体の繁殖を一手に引き受け、1~3匹の王様デバと交尾する。女王は群れの中で一番体が大きく、強くて、偉い。彼女は定期的に巡回し、働きデバがサボっていると、どやしつける。どやされた個体は服従のポーズを取り、反省の意を示す。

王様デバは、女王から「ピュイピュイ」という鳴き声で交尾を要求されると、断れない。

ふとん係デバは、女王に子が生まれると、床に寝そべってひらたすら子供たちのふとん役に徹し、もぞもぞと動きながら子供たちを保温する役割を果たす。

彼らは、「ピュウ」という挨拶の声、「キュイ」「プヒッ」という警戒の声、「ピュウピュウ」「ハァハァ」といった戦いの声など、何と17種類もの鳴き声を有している。状況に応じてこれらを使い分け、視覚が役に立たない地下のトンネルの中で上手にコミュニケーションを取っているのだ。彼らの出っ歯の後ろにある唇はヒトの唇のようになっているので、ヒト以外の動物はあまり用いない「パピプペポ」のような破裂音を発することができる。

岩波書店のホームページの本書紹介欄(http://www.iwanami.co.jp/moreinfo/0074910/)では、デバたちのさまざまな鳴き声を聞くことができる。また、彼らの動画も見ることができる。

本書を読み、上記ホームページで鳴き声を聞き、動画を見終わった時、デバたちに妙に親近感を抱いている自分に気がついた。近いうちに、上野動物園で彼らに再会したいと考えている。