榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

昭和時代の子供の世界が生き生きと再現されている・・・【山椒読書論(333)】

【amazon 『絵ごよみ 昭和のくらし』 カスタマーレビュー 2013年12月12日】 山椒読書論(333)

絵ごよみ 昭和のくらし――母たちが子どもだったころ』(亀井三恵子著、河出書房新社)からは、私たちの子供時代の懐かしさが漂ってくる。著者は私の母より3歳年下なので、過ごした時代は違うのだが、私の経験と重なるものが結構あるのだ。

幼稚園の巻――「自転車に乗って『紙芝居』がやってきた。それを、心待ちに遊んでいた子供たち、たちまち自転車を囲んで、『飴』『ジャムせんべい』と口ぐちに言い、おじさんの手許の動きを見つめながら鼻をすする。おじさんは、『ゴホン』と『ウオッホン』のまざった咳で喉を調整し、物語へと取りかかる。遅れてきた子がそのまま見ていたり、飴を買わない子が見ていると、物語りの途中でも、『タダ見のヒト』を見逃さず、『買ってから見てや』と営業。売りおわると、声色も一際高く、『あー今や、少年タイガーは・・・エヘン、ウオッホン!』」。本当に、紙芝居はこんな風だった。我が家は東京だったので、関西弁ではなかったが。

女学生の巻――「謝恩会当日。校内の温故館・大広間に舞台を作る。クラス全員それぞれのグループが合唱あり寸劇あり、担任の先生も、♪窓をあけ~れば~ 港がみえる~ と歌われて会場はキャーキイ状態。映画で観た『狸御殿』というのを脚色し、音楽つきで楽しく演じた組もあり、主役が役者さながら上手に演じ、細面なヒトなので、『狸御殿』とはやした」。そういえば、私も、「五条の橋の上の牛若丸と弁慶」の脚本を考え、自分で牛若丸を演じたことがあったっけ。日本舞踊を習っていた妹から着物を借りて、気分だけは牛若丸になり切っていたことを、何十年ぶりかで思い出してしまった。

「時局が末期的症状をあらわにしてきたころには、(アメリカの空襲の)防空対策と称してお堂を真っ黒に塗りたくり、ついには境内に防空壕と名づける大穴を掘ってしまった。人間が地にもぐろうというのだ」。私の場合は、もう戦後だったのに、まだ、あちこちの防空壕が暗い口を開けていた。

著者は、『サザエさん』の長谷川町子らに続く女性漫画家の草分けの一人だという。「プロの漫画家となって、すでに65年。今も描きつづけている理由を、『ただ描いているだけで嬉しい』『幼稚園の頃の空想遊びのまま』と言う。ただただ大好きな漫画を描いていたい――子供の頃から持ちつづけた純粋な思いが、大人になってもそのまま亀井さんの核となっている」。こういう人生を送りたいなあ。

ユーモアのある文章と、ほのぼのとした漫画が、本当にいい味を醸し出している。これから、イライラしたり、落ち込んだりしたときは、この本を開くことにしようっと。