人は、なぜ超常現象や陰謀論を信じるのか・・・【山椒読書論(379)】
「日経サイエンス2014年2月号」(日経サイエンス社)に掲載されている「特集 だまされる脳」は、私にとって非常に興味深い。なぜなら、幽霊や超能力といった、常識では説明できない不思議な現象を実際に見たり、信じたりする人が結構多いからである。また、世間に流布されているさまざまな陰謀論――「アポロ計画の月着陸は捏造だった」、「9月11日の同時テロは米政府による犯行だった」など――を真に受ける人が少なくないからである。
「超常現象が見える理由」(R・ワイズマン著、日経サイエンス編集部訳)は、多くの人が超常現象の存在を信じるのは、人間の思考を生むメカニズムがそうなっているからだと、にべもない。
「人間という動物が信じ込む奇妙な効果はテレパシーから透視能力、未来予知能、念力による物質のコントロール、死者との会話まで実に様々で、科学的に実証できる範囲をはるかに超えている。論理的説明を超えた現象を、なぜこれほど多くの人が信じ込むのか――その理由を探る心理学研究によって、驚きの事実が明らかになった。超常現象を信じるのは通常の人と根本的に異なる一部の人たちではない。私たちは誰でもみな、不可思議なことを信じるようにできているのだ」。
「限られた情報から素早く結論を引き出すことを可能にしているこのメカニズムは、ありもしない(因果)関係を誤って検出してしまう場合がある。さらには暴走してしまうこともあるのだ」。
これまでの研究が示すところでは、脳の右半球が左半球よりあまりに活発に活動するタイプの人は、およそあり得ない奇妙なことでも信じ易くなるというのだ。
「陰謀論をなぜ信じるか」(S・ファン・デア・リンデン著、日経サイエンス編集部訳)は、「陰謀論は事態に安直な説明を与えることで世界を実際よりも単純で予測のつくものに焼き直してしまう」ので、「その蔓延は社会の健全性を脅かす恐れがある」と、警告を発している。
「そうした観念(陰謀論)を生む大きな要因の1つは、権威・権力に対する強い不信だろう。権力は基本的に信用ならないとする信念体系においては、困った事態に対する別の説明が(いかに異様で矛盾したものであろうとも)、そのありうる権力に対する懐疑と整合している限り、もっともらしく思えるのだろう」。
さらに問題なのは、陰謀論が科学に対する不信とも結びつく傾向があることだ。喫煙が肺がんの原因となり得るといった確立されている科学的事実にも疑いを差し挟むようになるからである。
「プラセボ効果の脳科学」(T・グーラ著、日経サイエンス編集部訳)と、「サブリミナル効果の真実」(W・シュトレーベ著、日経サイエンス編集部訳)も読み応えがある。