我々が納めた税金を食い荒らしているのは誰だ・・・【続・独りよがりの読書論(24)】
タックス・イーターの正体
『タックス・イーター――消えていく税金』(志賀櫻著、岩波新書)を読んで、税金を貪欲に食い荒らす輩に対する激しい怒りが沸々と湧いてきた。税金を納めるのは国民の義務と弁えて、私たちは重い負担を我慢しているというのに、特定の連中にこのように勝手なことをされては堪らない。
明快な論理展開で、タックス・イーターの正体がじわじわと炙り出されていく。
この著者は回りくどい表現はせずに、常に直截である。「日本の財政はもはやほとんど破綻しているのであって、いかなる目標を掲げようが、いかに歳出を削ろうが、どれほど増税をしようが、再建は覚束ないというのが現実である」。「タックス・イーターは日本の政治と経済の隅々に至るまで網の目を張り巡らし、法を逆手に取りながら、我々の見えないところでその『文明』(税を収めることによって得られる報酬)を破壊しているのである。その悪行を看過するかぎり、我々の納める税が文明に生かされていくことはなく、我々に対価として引き渡されることもないであろう」。「タックス・イーターは我利我欲の亡者であり、国民の税金に群がり私服を肥やすシロアリである」。「財政金融政策の発動によって救われるのは往々にして財界に代表されるオールド・エコノミーである。本来ならば円高によって淘汰され退場すべきはずの産業や企業がゾンビとなって生き延び、新たに興りつつあるニュー・エコノミーの足を引っ張る。円高は経済構造を新しいものへと変化させていく好機であるにもかかわらず、日本経済は円高に直面するたびに、財政金融政策によって急場をしのぐ対症療法を取った」。「既得権益を守り、できるだけ多くの公的資金(税金)を誘導しようとする勢力は、政治家、官僚、業界でがっちりとスクラムを組んで『政官業の鉄のトライアングル』を作り上げてきた」。「タックス・イーターは退治しても退治しても湧き出てくる。行革の歴史は失敗の歴史であって、賽の河原に石を積むようなものである」。「全世界で巨額の収益を上げている多国籍企業(スターバックス、アップル、グーグル、アマゾン、マイクロソフトなど)は、各国で事業を展開しながらも税を払わず、各国が提供する公共サービスにタダ乗りをしている。その意味において、タックス・イーター以外の何ものでもない。しかも、その金額がケタ違いに大きいことを考えれば、『究極のタックス・イーター』と呼ぶべきであろう」。「グローバル・エコノミーの問題は、重要な課題を納税者に突きつけている。真面目に納税をしている中低所得層に、(経済的な)災厄の後始末の負担がのしかかってくるのである」というのだ。
タックス・イーターはどこに潜んでいるのか。「タックス・イーターの存在を把握するのは容易ではない。しかし、『何に群がるのか』という視点で観察すると、自ずとその姿が見えてくる」として、予算(一般会計、特別会計)、財政投融資、税(租税特別措置)、国債――の4つが挙げられている。さらに問題なのは、「タックス・イーターたちは、現在世代の支払う税金を食い荒らすだけでなく、赤字国債という将来世代の納付すべき税金をも先食いしている」点だ。
タックス・イーターとはいったい何者なのか。著者は、「政」の族議員(農水族、建設族・道路族、厚労族、文教族、郵政族、党税調)、「官」の主計局主計官、事業官庁(国交、農水、厚労など)、財投対象機関(特殊法人、認可法人、独立行政法人、特別民間法人など)を名指ししている。
鉄のトライアングル
「鉄のトライアングル」のメンバーにはどういうメリットがあるのか。「国会議員が当選回数を重ねて、選挙区での得票も安定してくると、勉強をする時間ができるようになる。そして、所属の委員会や派閥の都合、支援団体の関係から、何らかの専門分野といえるものを持つようになる。そうして知見が増し、専門家となり、政策能力も高くなっていくと、担当官庁との密接な関係づくりに勤しむようになる。このようにして形成されたのが政官業の『鉄のトライアングル』である。・・・鉄のトライアングルは、三角形の頂点にそれぞれメリット(旨み)がある。族議員にとって、業界団体は集票機構となり、かつ集金機構となる。・・・官僚にとって、族議員は法律の国会通過、予算の獲得などについて援助が得られるうえに、関連業界は退官後の天下り先の確保にきわめて重宝する。天下りは重要な人生設計の一部である。・・・関連業界にとって、予算では補助金、税制では租税優遇措置を獲得するチャンネルであった。また、自らに有利な法規制を導引させる重要なパイプとなった。とくに『参入規制』が重要で、これによって超過利潤を生み出し、利益誘導のメカニズムを維持できる」。こういう簡にして要を得た解説ができるのは、著者が大蔵省~財務省の高級官僚であったことと無縁ではないだろう。また、「鉄のトライアングルは大蔵(省)支配の体系への抵抗勢力でもあったのである」と鋭く指摘され、目から鱗が落ちた。さらに、業界の変化についても言及している。「ただし、見逃してはならない変化も一方では進んでいる。トライアングルの一角を占める財界・業界に大きな変化が生じてきているのである。・・・力のあるニュー・エコノミーの担い手たちは、政府や族議員の力を借りようなどとは考えない。トライアングルの圏外でも十分に生きていけることを知っているからである。経済界のメンタリティが変わってきていることを見逃してはならない。しかも、オールド・エコノミーの集まりである財界の中にあっても、真に強靭な企業は、多国籍企業(MNE)となって主要な拠点を海外諸国に移してしまっている状況である。いまやMNEは、巧妙な国際的租税回避スキームによって国家の枠組みを超え、『無国籍企業』と呼ぶべきものに変貌している。輸出力や国際競争力といった概念は、国の経済振興にとって意味をなさなくなりつつある」。
最後に、タックス・イーターに対する著者の具体的な対策が示される。情報開示、予算編成の脱セレモニー化と統制の利いた予算の執行、会計検査院の権限強化、国会による監視機能の強化、公金検査訴訟制度の創設――の5つである。
読み終わっても、怒りが収まらない。