榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ガンで余命6か月と宣告された58歳の妻と、その夫の物語・・・【山椒読書論(532)】

【amazon 『黄昏流星群(532)』 カスタマーレビュー 2020年1月24日】 山椒読書論(532)

コミックス『黄昏流星群(33)――流星メール劇場』(弘兼憲史著、小学館)に収められている「星になる前に」は、ガンで余命6か月と宣告された58歳の妻と、その夫の物語である。

夫・朝岡源六は5年前に大手自動車メーカーを定年退職し、現在は年金暮らし。長女は結婚しているので、妻・初子と東京郊外で二人暮らしだ。

余命6か月と告げられた初子は、抗ガン剤治療を拒否し、自宅療法を選択した。

思い切って二人で旅行しようと言う源六に、初子は、一度も行ったことのない仙台に行きたいと答える。

「妻との結婚生活はもう30年を越えるが、二人で楽しく過ごしたという記憶があまりない・・・。二人っきりで、こんな旅行をするなんて、考えたら新婚旅行以来かもしれない」。

「実は、私は知っている。彼女が仙台に初めて来たというのは嘘だということを・・・。私が(仙台を初めて訪れた)45歳の時だ。そして、先程(初子と)行った青葉城址の中にある神社で、私は凄いものを発見したのだ」。

「一瞬にして、その絵馬に(『朝岡源六と別れられますように ハッチ』という)文字を書いた人間が妻の初子であることがわかった。私の名前、『源六』なんてそうそうある名前じゃない。しかも、この癖のある筆跡が間違いなく、初子のものだから。ハッチ・・・。私は初子のことをそのように呼んだことがない。そう呼ぶ男と妻の初子は、この神社にやってきたんだ。それから20年。私はこのことを胸に秘めて妻に問い質すこともなく、今日に至っている」。

「『星になる前にここに来られてよかった』。妻の発言は、その男との想い出の場所をなつかしんだものだ。相手は誰なのか・・・その男はまだ生きているのか。私は今、迷っている。彼女が逝く前に、このことを彼女に話すべきかどうか・・・。そして、その時は目前に迫ってきた。余命はあと1か月もない」。

「結局、妻は(絵馬を書いたこと以外は)何も語ることなく逝ってしまった・・・。何を言おうとしていたのかは不明だが、しきりに私に何かを言おうとしていた」。

「妻が他界して2か月が過ぎた頃、突然『真相』が向こうからやってきた」。その真相とは・・・。