あんたの大学で、あんたの顔で、あんたのスタイルで、輪姦されるとでも思ったんすか? 思い上がりっすよ――東大生はこう嘯いた・・・【山椒読書論(562)】
『彼女は頭が悪いから』(姫野カオルコ著、文春文庫)には、読み始めてから最後のページまで、胸がむかむかしっ放しであった。
2016年5月11日未明、東京都豊島区のマンションで21歳の女子大学生の胸などを触った疑いで、5人の東京大学生が逮捕された。東京大学生らと女子大学生は、豊島区内の飲食店で食事をした後、5人のうちの1人が住むマンションで酒を飲んで、わいせつな行為に及んだとされ、うち4人は容疑を否認している――本書は実際に起こったこの事件を題材にした作品で、この事件に至る経過を7年半前の時点から描き始めている。
事件当日、水谷女子大3年の神立美咲は、処女で結ばれた東大大学院1年の竹内つばさから、2カ月ぶりに飲み会に呼び出される。美咲は、もう自分は性的相手としても、つばさから必要とされていないことを思い知らされていたので、会うのは今日が最後と決め、これまでありがとうと感謝の言葉を伝えて別れようと考えていたのに、事態は彼女の思いもしない方向へ転がっていく。
何ということだろう。5人の東大院生、東大生たちから屈辱的な仕打ちを受けたのである。無理矢理大量の酒を飲まされた美咲は全裸に剥かれ、蹴られ、ヘアドライヤーの熱風を臀部や陰部に当てられ、割箸を肛門に突っ込まれる。「『これは頭悪い女子大生のウンコがついてるとババッちいからポイしちゃおっと』。美咲の肛門を突いた割箸をクッションフロアに投げ捨てた。・・・『雌犬、いや、お肉たっぷりだから雌豚かな』。・・・つばさも、そして譲治も和久田も國枝もエノキも、東大生5人はだれも美咲を姦淫するつもりはなかったのだ」。
「雌豚。バカ女。ウンコついてて汚い。臭い。げらげら嗤われた昨夜。もうつばさは私には何の関心もないとわかっていたのに、縋ったみっともない私を、この人は、以前、野川由美子というきれいな女優さんに似ていると言ってくれた」。
「彼らは美咲を強姦したのではない。強姦しようとしたのでもない。彼らは彼女に対して性欲を抱いていなかった。彼らがしたかったことは、偏差値の低い大学に通う生き物を、大嗤いすることだった。彼らにあったのは、ただ『東大ではない人間を馬鹿にしたい欲』だけだった」。巻末近いこの一節が胸を刺します。
読み終わって、こんなに重苦しい気分になるなら手にするんじゃなかったと、一瞬、思った。しかし、これは、間違いなく、読まねばならぬ作品なのである。