呉が魏と死闘を繰り返している隙に、劉備は着々と勢力範囲を拡大する・・・【山椒読書論(585)】
横山光輝のコミックス『三国志』(横山光輝著、潮出版社、希望コミックス・カジュアルワイド、全25巻)は、羅貫中の小説『三国志演義』→吉川英治の小説『三国志』の流れを汲んでいる。
「第12巻 進攻玄徳軍」――。呉の周瑜が曹操軍と死闘を繰り返している隙を狙い、劉備と孔明は、荊州の各拠点を次々と傘下に収めていく。周瑜の怒りは頂点に達する。「我々は赤壁を打ち破るために、いかにばく大な戦力と軍費を犠牲に払ったかはかり知れぬ。それなのに、その戦果たる荊州の地を何もせぬ(劉備)玄徳に横取りされて黙っているのか」。
劉備は、さらに国力を強めるため、南征軍を進攻させる。「時は建安14年春であった」。
「かくて、零陵、桂陽、武陵、長沙4郡は玄徳の手によって平定されたのである」。
周瑜は、50歳の劉備と孫権の17歳の妹を結婚させるという謀略によって、婚礼のため呉を訪れる劉備を暗殺しようとする。
孫権の母が、呉を訪れた劉備を気に入ったため、結婚式が執り行われる。「周瑜は、酒と女で玄徳を堕落させ、家来達が玄徳を見限って去っていくのを待てと言ってきている。この策をどう思う」。
この策は奏功する。「玄徳にとっては夢のような世界であった。いつしか玄徳は過ぎゆく月日を忘れていった」。全く、男というものは!
劉備の警護役として同行している趙雲は、孔明の指示どおり、劉備に帰国を促す。危険な脱出行になるのは分かっているのに、劉備の新妻は同行を申し出る。「なぜ、そのようにおっしゃるのです。夫婦の契りとはそのようなはかないものではありませぬ。死ぬ時も一緒でございます。私も荊州に参ります。・・・呉に一人残っているより、妻として良人の側にいるほうが生き甲斐がありますわ」。この若く美しい妻は、武芸が好きで、腰にはいつも小弓を佩き、人々から弓腰姫というあだ名で呼ばれている気丈な女性だったのである。
劉備一行は、呉の追っ手を振り払い、脱出を果たす。