海外で開催されるオリンピックを現地で見物することを夢見る女子大生の物語・・・【山椒読書論(613)】
コミックス『人間交差点(8)――砂の絵』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「遥かなる」は、海外で開催されるオリンピックを現地で見物することを夢見る女子大生の物語である。
女子大生・会田陽子から、友人の沢木英二に300万円を持ち逃げされたという被害届けが出されたため、英二は刑事の取り調べを受け、自供してしまう。
親が陽子に金を返し、保釈金も用意してくれたため、沢木は保釈される。「女の金を盗むなんて最低の男だな」。「少しは恥というものを覚えなさい。そんな根性だから、二浪しても医大に入れないのよ!!」。沢木の父親は沢木病院の院長で、兄も姉も医師になっているのである。
事件前に、陽子からオリンピックに一緒に行こうと誘われた英二が、どうしてそんなにオリンピックに行きたいのかと陽子に尋ねる。その答えは、「東京で病院の院長の息子で、お金に不自由したことない英二君にはわからないだろうな。私なんか、大学出たら、すぐ田舎に帰っちゃう訳じゃない。小さな町でさ、何もない所なんだ。そこで誰かと見合いして結婚・・・もう今から自分の全生涯が見えちゃってる訳よ。東京にいるうちだけなんだもん、自由を謳歌出来るの。ここでの数年の青春時代の思い出を胸に、残りの生涯を田舎で生きていく訳じゃない? 私、何でもかんでも、良いことも悪いことも全部やっておきたいのよね!!」。
半年間の女子大生マッサージで稼いだオリンピック費用の300万円を空巣に盗まれてしまった陽子は、英二に罪を着せてしまったのである。「ごめんね英二君・・・私、どうしてもオリンピックへ行きたいの・・・。帰ったら、必ず釈明するから許して・・・だって私、この機会逃がしたら二度とオリンピックに来るチャンスはないのよ!!」。
陽子がオリンピックを見物している最中に、真犯人が逮捕され、英二の無実が証明される。
その後の二人は・・・。
青春と人生について考えさせられる作品である。