別れた妻が育てた娘が、突然、結婚式に出てくれと言ってきた・・・ ・・・【山椒読書論(647)】
【読書クラブ 本好きですか? 2021年12月31日号】
山椒読書論(647)
コミックス『人間交差点(26)――土曜日の花火』(矢島正雄作、弘兼憲史画、小学館)に収められている「小さな余韻」では、別れた妻が育てた娘が、突然、結婚式に出てくれと言ってくる。
「ママとパパは戸籍上、まだ夫婦なわけだから、形だけでもそれを通して欲しいの」。「それはどういう・・・」。「パパに結婚式に出て欲しいの。ただしあくまでも形だけ。一切、何も現実のことを話さずに、ママと仲の良い夫婦を演じて欲しいの」。
数年前、喫茶店で。「あなたが今、閑職にいようと、あるいは他のどういう状況にいようと、私達母子には関係ありませんわ。ただ申し上げておかなければならないのは、会社をお辞めになるのは結構ですけど、生活費は今まで通りにお願い致します」。「・・・わかっている」。「万一、今お勤めになっている会社より格落ちするような会社に移る場合は、正式に離婚させていただきます」。
「その性悪のホステスと暮らすようになったのは、それから間もなくだった」。その女は、私に何も告げずに、連れ子、まだ小さな女の子を残して出ていってしまったのである。
「パパ! (保育園への)お迎え遅い!!」。「ごめんごめん、ハハハハハ!!」。「手を離せば浮いてしまいそうな血のつながらない、この(まるで孫のような年齢の)小さな娘の手が・・・老い始めている私の手を懸命になって引っぱり・・・重い残りの時間に引き止めている」。
上質な短篇小説の趣を漂わせる作品だ。