戦争は絶対してはいけないと、静かに訴えかけてくる作品・・・【山椒読書論(650)】
【読書クラブ 本好きですか? 2022年1月3日号】
山椒読書論(650)
コミックス『夕凪の街 桜の国』(こうの史代著、双葉社)は、戦争は絶対してはいけないと、静かに訴えかけてくる作品である。
「・・・この近所の子?」。「うん、時々ああして手伝いに来てくれんさるんよ。あの通りちいととろい子じゃし、こないだお父さんを亡くしてねえ。中学出たばっかりのお兄ちゃんと二人じゃけえ心配じゃろ」。
「うちねえ、赤ちゃんの時、ピカの毒に当たったん・・・ほいで、足らんことなってしもうたんと」。「・・・誰が言ったの?」。「みんな言うてじゃ」。「先生も?」。「うん」。「・・・すぐ原爆のせいとか決めつけるのはおかしいよ。どれ、教科書見せてごらん。ぼくが教えてあげるから」。「・・・」。
「・・・あんた被爆者と結婚する気ね?」。「母さん・・・」。「何のために疎開さして養子に出したんね? 石川のご両親にどう言うたらええんね? なんで、うちは死ねんのかね。うちはもう知った人が原爆で死ぬんは見とうないよ・・・」。
「・・・母さんが38で死んだのが原爆のせいかどうか誰も教えてはくれなかったよ。おばあちゃんが80で死んだ時は原爆のせいなんて言う人はもういなかったよ。なのに、凪生もわたしも、いつ原爆のせいで死んでもおかしくない人間とか決めつけられたりしてんだろうか」。
絵はほのぼのとしているが、訴えはずしりと重い。