本当に勉強になる『日本野鳥の会のとっておきの野鳥の授業』・・・【山椒読書論(673)】
『日本野鳥の会のとっておきの野鳥の授業』(日本野鳥の会編、上田恵介監修、山と溪谷社)には、興味深いことがいろいろ記されているので、本当に勉強になる。
●「おしどり夫婦」、「鴛鴦のちぎり」は真実に非ず
「それ(私や私の師の山岸哲さんの説)が広まって、『オシドリは一夫一妻ではない』ということになってしまったのだが、実のところ、オシドリのつがい関係を研究した人はだれもいないので本当のところはよくわからない。とはいえ、カモ類のオスは交尾が終わると抱卵や子育てをメスに任せ、ヒナの世話をしないのが通例である。そして繁殖が終わって、越冬地へ渡っていくと、冬の間にまた別のメスとつがいを形成して、繁殖地へ戻ってくる。毎年つがいの相手が交代しているカモ類では、オシドリを含め、『鴛鴦のちぎり』などはないと考えたほうがよい」。
●スズメやムクドリの群れは家族に非ず
「スズメやムクドリが秋から冬にかけて群れているのは、別に家族でもなんでもなく、ただ単にその地域で生活する鳥たちがいっしょにねぐらをとって、群れでエサ場にやってくるだけである。彼らの群れの中に『家族』という単位はない」。
●鳥にも方言がある
「最近の観察と研究によって、鳥のさえずりには地域によって差があることがわかってきました。日本中のウグイスが『ホーホケキョ』と鳴くわけではなかったのです」。
●鳥の方言から、さえずりの進化が分かる
「離島と本土のさえずりのちがいから進化の仕組みが見えてきます」。
●シジュウカラは言葉でコミュニケーションをとっている
「私のこれまでの研究で、シジュウカラは20種類以上の音声要素(アルファベットに相当)をもっており、それらをさまざまに組み合わせることで、『ピーツピ・ヂヂヂヂ』以外にも、『チチチ・ヂヂヂヂ』や『ピチュピー』など、175種類以上のユニークな鳴き声の配列を発することがわかってきました。今回の研究では、『警戒しろ!』と『集まれ!』からなる2語文の存在を明らかにしましたが、シジュウカラはほかにもさまざまな単語を組み合わせ、多様なメッセージをつくっていると思われます。今後は、シジュウカラが文法を用いて、どれほど複雑な情報をどれだけ正確に伝えているのか、明らかにしていこうと考えています」。
●オスの羽が派手な色に進化したのはなぜか
「(オスとメスの羽の色が異なる鳥たちの)オスの派手さを説明するのが、『性選択』というメカニズムです。性選択には、『異性間選択』と『同性内選択』があります。そして異性間選択の代表例は、メスによる選り好みです。・・・『同性内選択』は同性同士(とくにオス同士)の間で生じる進化のメカニズムです。・・・ルリビタキでは、高齢な青色のオスとオリーブ褐色である若いオスの間で、闘争の激しさが異なります。つまり、雄間闘争に羽色のちがいが関連しているのです」。くだけた言い方をすれば、鮮やかな瑠璃色の年上のオスは、くすんだオリーブ褐色の年下のオスに対し「若造か」と威圧することができ、若オスのほうは「こいつ強そう」とビビるというわけだ。